マーケティング学習で陥る3つの罠 「学び方を学んでいない」迷子が多すぎる:トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/2 ページ)
マーケティングを学ぶとき、迷子になるマーケターが後を絶ちません。なぜでしょうか? また、学習時に陥りやすい3つの罠についても解説します。
そもそもマーケティング(マーケター)とは
マーケティングの目的は「お客さまに買っていただくこと」または「買い続けていただくこと」ですから、マーケターの仕事とは、お客さまが買ってくれない理由を見つけ、それらの課題を解決することで「買ってくださる確率を高め、お客さまの数を増やすこと」と言えます。
また、少し違う視点として「マーケティングとは人の営みを科学し、再現可能性を高めること」と表現することもできます。
マーケティングは難解な理論や数多くのフレームワークがあって小難しくてよく分からない! と敬遠されがちですが、つまるところ「人は何に興味があり、何に興味がないのか」「どういう人が、どういうときに、どんな商品やサービスを欲しくなるのか」「逆に、どんな商品やサービスは欲しくないのか」「どんな商品やサービスが買われ続け、逆にどんなときに買うのをやめてしまうのか」「それはなぜか」「じゃあどうすればいいのか」など、人の気持ちを考える枠組みでしかありません。
このように伝えると、「マーケティングは人間の日々の行動を読み解くツールなのだとしたら、個別理論よりも具体的な状況での購買意識や行動を学ぶ方が効果的なのでは?」と考える人もいるかもしれません。なぜ、具体的な事象よりも理論学習が重要なのでしょうか。
「具体」は再現性が低い
その理由は、具体(事例)は再現性が低いからです。事例は分かりやすく、とっつきやすいため、「答え(=すぐに真似できる成功の方程式)」と捉えられがちですが、あくまでヒントや考える材料でしかありません。
A社の成功事例は「A社特有のマーケティング課題を解決するために実施した施策によって、A社の課題が解決した事例」です。その成功はA社の商品特性、強みや弱み、顧客基盤、競争環境、使える予算、タイミングなどの最適性などが合致したから成功したのであり、B社がそのまま真似(まね)をしても前提が違いすぎてうまくいくはずがありません。
あらゆるビジネスは再現可能でなければなりません。再現性を高める(意図して計画的に成功させる)ためには、成功や失敗のパターンや法則を知っている必要があります。それが理論です。
数多くの成功事例と失敗事例(=具体)から共通するパターン、法則、規則性などを見いだすプロセスが「抽象化」ですから、理論は総じて抽象的です。逆に言えば、抽象的だからこそ、再現性の高い具体を導き出すことができるのです。
「知る→分かる→できる」のステップ
実践学としてのマーケティングは、現場で使えなければ意味がありません。そのため、学ぶ目的はあくまで「できるようになること」です。
できるためには、分かっていなければなりません。「分かっている」から「できる」のです。「知っている」から「できる」のではありません。
確かに、「知っている」から「できる」仕事もたくさんあります。しかし、マーケティングの仕事は変数が多く、かつ状況が毎回違います。ターゲット顧客、顧客ニーズ、既存の顧客基盤、市場ポジション(シェア)、競合や競争環境、商品の特性や競争優位、価格、広告予算、販売経路や配荷率など、ありとあらゆることが異なります。
そんな状況下では「知っている」→「できる」ことはかなり限られます。「できる」ためには、必ず「知っていること」を状況に応じてチューニングやカスタマイズをする必要があり、そのためには知っているだけでなく「分かっている」必要があるのです。
「知る」ことは読書やセミナー参加などの座学で学習可能です。しかし「分かる」ためには、自身の頭で考え、借り物の知識を自分の知識として定着させる必要があります。学ぶことは、学ぶこと(知識を増やすこと)そのものに価値があるのではなく、「考える材料」を増やすことこそに意味があります。
学んだこと(知識が増えたこと)に満足するのではなく、学んだことを自身の頭で考える習慣を持ってください。いくら座学で学習を続けても、考えることから逃げていては期待する成果は得られません。
〈点⇔線⇔面〉をつなげる
マーケティングを「お客さまに買っていただくこと、および買い続けていただくことを頂上とした登山」と見立てた場合、頂上に至るルートは必ずしも1通りとは限りません。主要なルート(線)がマーケティングの流れであり、それぞれのルート上に存在するさまざまな障害物を乗り越えるための具体策が施策(点)であり、頂上までの複数ルートの設計がマーケティング戦略の全体像(面)を表します。
全体像やルートを見失ってしまう最も大きな要因が、各ルートに潜む障害物です。目の前の障害物を乗り越えること(点)に集中しすぎるあまり、障害物を乗り越えることそのものが目的化し、「あれ、これって何のためにやってるんだっけ?」と自分がいる位置を見失ってしまう。その障害物は頂上に至るルート(線)に存在している「乗り越えなければならない一つの通過点」であり、常に「その先がある(ゴールは常に登頂である)」ことを忘れてはなりません。
頂上に達するための戦略の全貌が見え、それぞれのルートの位置付けや代表的な障害物、それらを乗り越える戦術の背景と意味が分かったとき、 マーケティングは格段に正確に、そしておもしろくなります。
もちろん、点は重要です。点があるから線がつくれるし、線を進むから面が成立します。しかし、点だけを見て点に取り組むのと、面の中で線を見て、その線上にある点の種類と順番を知った上で、目の前にある点と対峙するのでは仕事の精度や創意工夫、やりがいに雲泥の差が生まれます。
「今取り組んでいる仕事は、どんな戦略の全体像(面)の、どのルート(線)に置かれた障害物を乗り越えるためのもの(点)なのか」を考えながら、「今学んでいることは、マーケティング全体像(面)の、どのルート(線)に置かれた障害物を乗り越えるための理論なのか」を強く意識をしながら仕事に取り組み、学ぶのです。常に全体像(面)とルート(線)を意識しながら個別の理論(点)を学ぶようにしてください。
次回は、マーケティングの全体像とマーケターの学習範囲について解説します。
マーケティングの無料学習サービス:MARPS(マープス)
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著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行
1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上のマーケティング支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)のほか、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。X(旧Twitter):@ikedanoriyuki
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