東京海上、伊藤忠、日立、味の素──人的資本「すごい開示」に共通する2つの要点:投資家ウケする人的資本開示(2/3 ページ)
人的資本開示に関する情報はあふれているが、その多くは、ルールや基本の「型」を示すにとどまっている。「とりあえず、型通りに開示しておこう」という姿勢では投資家からの期待は得られない。
伊藤忠商事
(1)一貫性:事業とマテリアリティ、企業風土との言行一致
統合レポートの位置付けから丁寧に説明しており(p.2)、非財務資本とマテリアリティーとの関係を構造で示している点に一貫性がある(p.22)。
2022年の統合レポートにおけるCAO(Chief Administrative Officer)のインタビューにおいても、サステナビリティのアクションについてマテリアリティーを絡めて言及しており、経営としてのコミットメントの高さが伺える。事業とマテリアリティーの接続を一貫して訴求している点は、企業としての言行一致の体現だと言えるだろう。
(2)実効性:160余年にわたって積み上げてきた強みを支える人材戦略と、それに対する経営トップのコミット
働きやすさだけでなく、働きがいという価値創造の文脈で人材戦略が語られており、採用・育成・制度・風土が全方位的にまとめられている。人材戦略を網羅的かつ1枚で表現し、それを労働生産性向上による企業価値向上という財務への価値転換につなげている点も素晴らしい(p.30)。
中国語人材の増加や朝型勤務の推進による健康経営など、ユニークかつ全方位的な取り組みにおいて定量的なKPIを置きながら、最もコアなところに労働生産性という指標を示しているところに会社としての安定感と堅調な成長性が見てとれる。160余年にわたって積み上げてきた強み(p.29)を支える人材戦略と、それに対する経営トップのコミットが、人的資本経営の実効性の高さを物語っていると言えるだろう。
日立製作所
- 日立 統合報告書 2022(2022年3月期)
- 日立 サステナビリティレポート2023(2022年度実績)
(1)一貫性:根底にある、共通した思想と技術
社会課題を構造化したマテリアリティーの特定には、同社ならではの説得力がある(p.19)。また、「サブ・マテリアリティー」という表現で重要項目を挙げており、KPIを置いているのも納得感につながっている(p.19〜20)。複合企業体においては、根底に共通した思想と技術の存在が必要だと言われて久しい中、同社はそれを体現する日本でも希少な企業ではないだろうか。16年に始まった「Lumada (日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称) 」は、現トップがCTO時代に立ち上げられた事業であり、未来の変革を期待させる。
(2)実効性:極めて透明性の高い、理解のしやすいガバナンス
人材戦略について、2024中期経営計画にて経営戦略に連動したKPIが設定されており、戦略における納得感が高い(p.27)。HR Strategyを基に訴求することで、高いレベルの人的資本開示を実現しており、22年の日経統合報告書アワードではESGの「G賞」を受賞しているのもうなずける。
同社の有価証券報告書に「人材は最大の資産」とあるように、非常に高いコミットメントで人的資本開示をしている。ソリッドに表現されている統合報告書に加え、網羅性を担保したサステナビリティレポートでは、財務マネジメントや経営戦略と連動したKPIをはじめとした開示の網の目はかなり細かく(p.72〜73)、以降の人材戦略は極めて詳細かつ理解しやすい形で表現されている。
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