日本経済にはびこる「下請けいじめ」 巧妙化するその実態:働き方の「今」を知る(4/6 ページ)
ある企業が、自社で販売・使用する商品や製品を発注している下請け企業に対して、不当な値切り行為や支払遅延をしたり、相手側に非がないにもかかわらず、受け取り拒否や返品などをしたりする行為を総称して「下請けいじめ」と呼ぶ。この下請けいじめが、多くのビジネス現場において深刻な問題となっている。下請けいじめに遭わないためには、どうしたらいいのか? その実態と解決策に迫る。
親事業者(元請側)が果たすべき「11の禁止事項」
そして、元請企業の11の禁止事項は次の通りだ。たとえ下請事業者の了承があっても、また元請側に違法性の認識がなくても、これらの規定に触れれば下請法違反となるので、充分な注意が必要である。
(1)受領拒否
下請会社側に落ち度がないのに、納品物の受領を拒んだり、正当な理由なく納期を延期したり、代金を支払わなかったりすること
(2)下請代金の支払遅延
親事業者の義務にもあった通り、元請側は納品日(役務提供委託の場合は、役務が提供された日)から起算して60日以内に代金を全額支払わないといけない。この際、「社内検査のため」とか「金融機関の休業日のため」といった理由があっても遅延してはいけない決まりで、厳密に確認もされるため、支払期日は厳守しなければならない。
(例)
婦人服ブランド「レリアン」は、既製服などの製造を下請事業者に委託していたが、消化仕入取引(商品を店頭で顧客に販売したときと同時に、その商品を納入業者より仕入れたものとする、という販売形態)を行っていたため、下請代金の支払期日が定められていなかった。そのため、本来は下請事業者から商品を受領した日が支払期日と定められたものとみなされ、総額約1億7000万円が未払いとされた。
(3)下請代金の減額
元請側は、発注時に決定した代金を「下請側の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず、発注後に減額すると、仮に下請企業側の同意があっても下請法違反となる。現在公取委から勧告・公表されている下請法違反事案のうち大多数は、この代金減額が占めている。
(例)
「森永製菓」は、食料品製造を委託している下請事業者に対して単価の引き下げ改定を実施したが、引き下げの合意日前に発注した食品についても、引き下げた単価をさかのぼって適用した。(被害総額約958万円)
(4)返品
元請側が返品できるのは、納入された物品に瑕疵があるなど、明らかに下請側に責任がある場合で、受領後即時に返品する場合のみ。下請側に非がない場合や、受領から6カ月を経過してからの返品は不当返品となる。
(例)
靴販売大手「リーガルコーポレーション」は、下請け企業に製造委託した商品を受領した後、品質検査を行っていなかったにもかかわらず、当該商品などに瑕疵があることを理由に返品していた(被害総額約1147万円)。
(5)買いたたき
元請側が発注する際、通常支払われる一般的な価格よりも著しく低い額を不当に定めることは「買いたたき」として下請法違反となる。また「納品後に価格を決定する」ケースや、「コストをかけさせて短期で納品させたにもかかわらず、納期短縮に要したコスト分を支払わない」ケースも同じく「買いたたき」に含まれる。
(例)
100円ショップ大手「大創産業」は、商品の売行きが悪いことを理由として、発注前に下請事業者と協議して決定していた予定単価を約59%〜約67%引き下げた単価を定めて発注。下請事業者に対して総額約658万円の損害を与えた。
(6)購入・利用強制
正当な理由なく、元請側が指定する物品を下請側に強制的に購入させたり、サービスなどを強制的に利用させたりして対価を支払わせること。
(例)
冠婚葬祭業「日本セレモニー」は、司会進行、美容着付け、音響操作などの実務を委託している法人・個人の事業者に対して、式場で提供しているおせち料理やディナーショーのチケットなどの購入を要請。販売目標数量に達していない場合には再度要請するなどし、総額約3300万円の売り上げを作っていた。
(7)報復措置
元請側によるこれらの禁止行為や下請法違反行為について、下請側が公取委や中小企業庁に報告したことを理由に、元請側が下請企業に対して取引を停止したり、取引数量を削減したりと、不利益な取扱いをすること。
(8)有償支給原材料などの対価の早期決済
元請側が有償で支給する原材料などを用いて下請側が納品物の製造などをしている場合、下請側の責任に帰すべき理由がないにも関わらず、納品によって代金が支払われる期日よりも早い時期に、原材料などの代金を下請側に支払わせたり、下請代金から控除(相殺)したりすること。
(9)割引困難な手形交付
元請側が代金を手形で支払う場合、支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付すること。「割引困難」とは、現在の運用では繊維業の場合90日(3カ月)、その他業種は120日(4カ月)を超える長期サイトの手形が該当するが、手形の支払サイトについては近々「60日を超える」ものから指導対象にするべく見直しが検討されている。
(10)不当な経済上の利益の提供要請
元請側が下請側に対し、何かしらの優遇を約束する見返りに、例えば「協賛金」を要求したり、「ヘルプ人員の派遣」を要請したりと、金銭や役務などを提供させること。
(例)
キャラクターグッズ企画販売「サンリオ」は、下請事業者に製造させ、納品させる商品と同一商品をサンプルとして無償で提供させていた。提供させた商品相当額は約574万円。
(11)不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
下請側に非がないにも関わらず、発注を取り消したり、無償で発注内容を変更したり、受領後にやり直しをさせたりすること。
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