日本経済にはびこる「下請けいじめ」 巧妙化するその実態:働き方の「今」を知る(5/6 ページ)
ある企業が、自社で販売・使用する商品や製品を発注している下請け企業に対して、不当な値切り行為や支払遅延をしたり、相手側に非がないにもかかわらず、受け取り拒否や返品などをしたりする行為を総称して「下請けいじめ」と呼ぶ。この下請けいじめが、多くのビジネス現場において深刻な問題となっている。下請けいじめに遭わないためには、どうしたらいいのか? その実態と解決策に迫る。
「下請法」以外でも禁止されている、その他の「下請けいじめ」の構図
建設業も同じく、元請け企業と下請け企業の間でパワーバランスが生まれやすい業界だが、実は下請法では建設工事にまつわる分野はカバーされていない。では、建設工事にまるわる下請け企業は保護されないのかというとそうではなく、また別の法律「建設業法」によって保護されている。
それぞれの内容に細かな違いはあるものの、立場が比較的弱い下請事業者を保護する目的であることは変わらない。
下記を始めとする義務・禁止事項を定め、下請事業者の権利を保護する内容となっている。
- 手数料目的の丸投げ禁止
- 発注者(元請企業)は適切な工事代金・費用を支払う義務
- 受注者(下請企業)が工事を終了した後は発注者が速やかに検査し、工事代金を支払う義務
また中小企業庁でも、「下請適正取引等推進のガイドライン」を定めており、以下のような内容を規定したうえで、定期的にバージョンアップされているのでご確認いただきたい。
- 不当に安い工事代金で注文することの禁止
- 発注に際しては適正なスケジュールを設定する
- 追加工事が発生した際、工事費用を下請け業者に負担させることの禁止
- 工事進行中に下請け契約の変更が必要になった際は必ず変更契約に対応する
- 支払いが手形になる場合は、手形の現金化にかかる割引料などのコストや手形の期間に配慮する
さらには下請法とは別に、「独占禁止法」という法律があり「優越的地位の濫用」を禁じる規定がある。これは元請・下請の関係がなくとも、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることを禁じたものだ。
(例)
信託銀行大手「三井住友信託銀行」と、太陽光開発ファンドを運営する「GIキャピタルマネジメント」が資金を投入した太陽光発電所建設プロジェクトに関して、施主であることの優越的権限によって下請け事業者に対して請負外の工事を要求。請負側が反発すると、工事書類に押印をしないなどの妨害をして工事を止めたほか、台風によって崩落した工事も追加施工させ、完工後売電収入を得ているにもかかわらず、請負代金不払いの上、台風復旧等追加請求も受け付けず逆に台風で工事が遅れたことによる遅延金を支払うよう下請け会社を提訴。現在公判中。
いかがだろう。読者の中にも「もしかしたら自分たちも下請けいじめに遭っていたかも……」、もしくは「まずい! 気が付かないうちに自分たちが下請けいじめに加担していたかも……」といった気付きがある方がおられたかもしれない。
特に昨今は世界的なエネルギー価格や原材料費の高騰もあり、発注側が取引価格にコストの上昇分を反映しなければ、下請側の中小企業に負担が集中しやすいご時勢でもある。公取委は毎年、親事業者や下請け事業者に書面による定期調査を実施しているが、22年末より担当職員を50人増員して執行体制を強化しており、下請法違反や優越的地位の乱用の監視に力を入れている。中には、「下請事業者から値上げ要請がなかったため、取引価格を据え置いていたまま」の元請企業が指導を受けたケースも存在する。
ぜひ発注側の企業各社におかれては対岸の火事と思われることなく、本記事を契機に自社の下請け取引に問題がないか、あらためて社内の法務・コンプライアンス部門や顧問弁護士に確認されることをおすすめしたい。
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