売れ続けるマツダ「ロードスター」 あえてフルモデルチェンジしない理由:鈴木ケンイチ「自動車市場を読み解く」(1/3 ページ)
売れ行きが好調なマツダ「ロードスター」。前回のフルモデルチェンジから約9年が経過する中、マツダがあえて商品改良したのには、ある理由がありました。
マツダ自慢のスポーツカー「ロードスター」の販売が好調です。2022年、ロードスターは年間販売台数9567台を記録。15年発売の4代目現行ND型として、デビュー7年目で最大の年間販売記録を達成しました。
要因として、コロナ禍で公共交通機関を避けたいユーザーが、移動手段としてクルマに注目したことが挙げられます。外出自粛でアウトドアや旅行が難しくなったため、その分のお金をクルマの購入に回す動きもあり、販売台数の増加につながりました。アフターコロナとなった23年も、1〜10月までで5727台を売り上げ、21年の年間販売台数(5369台)を突破。22年に続く好成績になるのが確定しています。
23年10月下旬から開催された「JMS2023(元・東京モーターショー)」におけるマツダのブースでも、ロードスターは主役級の扱いでした。目玉となるコンセプトカーは別にありましたが、それ以外は、ほぼロードスターだけ。初代ロードスター、10月上旬に商品改良を発表したばかりの最新のロードスター、子どものために作られた3分の2サイズのロードスターまでがそろい、イベントを大いに盛り上げていました。まさに、マツダの顔=ロードスターとなっていたのです。
かつては「日陰者」だったロードスター
しかし、歴史をひもとくと、ロードスターの誕生は「日陰者」扱いから始まっています。1980年代後期、国内シェア3位を巡ってマツダはホンダと争っていました。新型車を次々投入し、車種を拡充するホンダ。車種が少なかったマツダは、それに対抗するべく大きな目標を掲げました。国内販売100万台と、それを実現するための販売5チャネル体制の構築です。
5チャネルとは「マツダ」「アンフィニ」「オートラマ」「オートザム」「ユーノス」で、チャネルごとに別々のクルマを販売します。そのため、マツダは新型モデルの開発に次々と着手。ロードスターは、そうして生まれた新型モデルの1つでした。しかし、時代は豪華でより高性能を求めるきらびやかなバブル真っ只中。スポーツカーもパワフルで速く、高額なモデルが数多く登場しました。そんな時代に、ロードスターのように小さくて安価で、しかも幌の2座のオープンカーは、ほぼ絶滅危惧種となっていました。
そのため初代ロードスターの開発は、マツダ社内でも日陰者扱いだったようです。それもそのはずで、売れそうもない絶滅危惧種のスポーツカーに携わるなど、開発者としての出世を諦めたようなもの。開発初期は担当者を集めるだけでもひと苦労で、あてがわれた設計室は、もともと倉庫だったところでした。しかし、そんな逆境でも少しずつ有志が集まり、開発が進んでいったそうです。
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