大阪王将「ナメクジ」事件、告発者はなぜ逮捕されるのか? 内部通報“後進国”ニッポンを考える(2/2 ページ)
不正を暴く人が守られなければ、社会全体の損失につながる。ではどうあるべきか。
制度が「機能不全」であるならば、どうすればよいか
内部通報窓口が機能不全である場合、問題を解決するためにはより慎重かつ戦略的なアプローチが必要だ。
名誉毀損や業務妨害で訴えられたり、逮捕されたりするリスクを避けつつ、問題を適切に報告するためのポイントとして肝心なのは、まずは「文書化」だ。遭遇した問題や不正、通報した内容や日付、内部窓口への報告結果を詳細に文書化することが第一歩である。
これは、あなたの通報が適切であったこと、そして組織が問題に対処しなかったことを示す証拠となる。録音や写真が伴わなくとも、継続的に状況を詳述していけば証拠としての説得力も増す。
問題を報告する際には、感情的な表現や主観的な意見を避け、客観的な証拠や事実に基づいて行動しなければならない。電子メールやチャットアプリでのやりとりなども問題の存在を証明できる具体的な証拠として有力である。
仮に内部告発窓口が機能しておらず、行政からの対応も期待できない場合、SNSを含む公の場で情報を公開する場合は、特に慎重に行動しよう。情報は事実に基づき、名誉毀損(きそん)や個人のプライバシーを侵害しないよう注意が必要だ。公にする情報が正確であること、そして不要な個人情報や感情的な言葉を排除していることを確認しなければならない。
内部通報窓口の機能不全に直面した場合でも、上記のポイントに従って行動することで、問題を公正に、かつ効果的に解決する道を模索することが可能だ。
内部通報の窓口を整備しないことは、経営側のリスクでもある
まず、日本では22年の公益通報者保護法の改正によって常勤労働者が300人を超える事業者には内部通報窓口の設置が義務付けられている。
300人未満であれば努力義務となるが、窓口がない、または機能していない組織は、問題が表面化した際に迅速かつ適切に対応することができない。内部で早期解決できたはずの問題が、後になって重い行政処分を課されたり、SNSで暴露されたり、企業の信用を大きくおとしめてしまう可能性がある。
ビッグモーターの事例では、問題が明るみに出るにつれて、従業員側から社内のLINEを流出させるなど、いまだ明るみに出ていなかった不正を暴露する動きも加速した。社内の問題に目を背ければ、後になって大きな代償を払うことになるというわけだ。
結果的に、大阪王将の告発事案が刑事責任が問われるような形での暴露であったと認定されたとしても、会社側の内部通報体制が万全であればSNSでの拡散に打ってでることはなかったはずだ。
透明性の高い内部通報窓口の設置は、不正行為や問題を早期に発見し対処するための基盤を築く。従業員が黙って転職することや、週刊誌に売ることもなく、リスクを負ってわざわざ不正を内部で告発するということは、それだけ会社への帰属意識や正義感が強いことを示している。
企業のガバナンス向上が求められる今の時代、企業側は内部告発を「裏切り」ではなく「勇気ある行動」としてたたえ、他の社員にも促すような“度量”が必要なのではないか。
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