「トヨタグループ」連続不正への提案 なぜアンドンを引けなかったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/8 ページ)
2022年の日野自動車を皮切りに、4月のダイハツ工業、明くる1月の豊田自動織機と、トヨタグループ内で不祥事が続いた。立て続けに起こった不正はなぜ起こったか。そして、その原因を考えていくと、トヨタにはこの問題を解決できる素晴らしいソリューションがあるではないか。
ダイハツの技術に対するリスペクト
かつて、スズキがフォルクスワーゲンとの提携を解消するために法廷で争い、膨大な違約金を払ってまで離脱したのは、フォルクスワーゲンがスズキの文化を上書きしようとしたからだ。それは実質的にスズキの消滅を意味する。鈴木修氏が高齢を押して社長の座に留任してまでフォルクスワーゲンと戦い抜いた理由はそこにある。そして「提携には今回の件で懲りた」と明言していたにもかかわらず、後に自らトヨタを訪ねて提携を申し入れたのは、トヨタのダイハツに対する扱いを見ていたからだと筆者は思っている。
ダイハツの100%子会社化の時、当時の豊田章男社長に尋ねたことがある。トヨタはダイハツを子会社にして何をやらせたいのか。その問いに対する豊田社長の答えは明確だった。「トヨタが何をやらせたいかではなく、まずはダイハツが何をやりたいかです。それが最初にあって、トヨタは協力できることに協力するのです」
一連の会見の中で、トヨタの佐藤恒治社長が何度か言及した「ダイハツの技術に対するリスペクトが逆効果になった」という発言はそこを捉えたものだ。良かれと思ってダイハツの文化と技術を尊重し、遠慮をし過ぎてしまった。本当は、一歩踏み込んででもSOSを発信したかった現場の声を掬(すく)い上げて、能動的に協力すべきだったということを意味している。しかしながら「まずはダイハツが何をやりたいか」を優先するあまり、彼らがSOSを発信してくることに対する「待ちの姿勢」に甘んじてしまい、これだけの不祥事につながってしまった。佐藤社長はそう見ているわけだ。
そこが分かってくると、「親会社トヨタのブラックな押し付けが不正を生んだのではないか?」という疑問の不自然さに気付くのではないか。トヨタはダイハツを尊重し、新興国小型車カンパニーを任せようとした。ただでさえ人手不足と短納期開発で疲弊している現場に対し、トヨタは結果的にさらなる業務の追加を要求してしまったことになる。しかしそれをブラックの文脈で読み解いても意味が通らない。むしろ彼らの自主性と自己管理能力を過信したがゆえに起こった問題である。
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