「トヨタグループ」連続不正への提案 なぜアンドンを引けなかったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(8/8 ページ)
2022年の日野自動車を皮切りに、4月のダイハツ工業、明くる1月の豊田自動織機と、トヨタグループ内で不祥事が続いた。立て続けに起こった不正はなぜ起こったか。そして、その原因を考えていくと、トヨタにはこの問題を解決できる素晴らしいソリューションがあるではないか。
TPSはトヨタの御神体
何よりトヨタグループの中で「TPSなんて効果がない」と言える人はいない。トヨタの御神体ともいえる存在で、それが信じられなければトヨタグループにいられない。そんなネガティブな言い方をしなくても、おそらくほとんどの人がTPSを信用しているはずで、抵抗する人はいないのではないか。
これも豊田会長から聞いた話だが「TPSの真髄は合理化だと言う人がいるけれど違うんです。TPSは仕事を楽にする仕組みなんです」。せっかく仕事を楽にする仕組みだったら、それを大いに活用すればいい。
アンドンを引いた人はヒーローである。仮に、その行動によって今回の一連の不正を未然に防げたのだとすれば、それは値千金というか、1億円くらい褒賞を出してもお釣りがくるだけの価値がある。それだけの損害を防いだ人が褒められるのは当然である。アンドンを引くことの正義はもっと常識化・普遍化されなくてはならない。
なので、中期的にはトヨタグループ全体をカバーできるアンドン管理の体制を作り、その価値観を徹底させた上で、最終的にはそれを現場主権に徐々に移行していくことこそが、今回の問題の真因レベルからの対策になるのではないかと思っている。
この記事はおそらく佐藤社長も豊田会長も読むと思われるので、さてどう受け止められるだろうか。いやそんなこと言われるまでもなくやってますという話ならそれはそれでいい。余計なお世話でしたというだけの話だ。万が一にも、もっと詳しく話を聞きたいというご要望があるのなら、ニッポン経済のためにいくらでも話をする準備がある。
プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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