「トヨタグループ」連続不正への提案 なぜアンドンを引けなかったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/8 ページ)
2022年の日野自動車を皮切りに、4月のダイハツ工業、明くる1月の豊田自動織機と、トヨタグループ内で不祥事が続いた。立て続けに起こった不正はなぜ起こったか。そして、その原因を考えていくと、トヨタにはこの問題を解決できる素晴らしいソリューションがあるではないか。
なぜアンドンを引けなかったのか
と、「無理もモチベーション理論」をぶち上げつつも、この無理は紙一重であることも筆者は分かっている。ほんのわずかないき過ぎがあると、辛さが限界を超えて体や心を壊してしまう。先ほどの異常管理の話と同じく、「無理を正常に楽しめている時」と「無理が楽しめなくなった時」を切り分ける異常管理がここで必要になってくる。
しかしながら、トヨタにはそこに素晴らしいソリューションがあるではないか。それこそがトヨタ生産方式(TPS)であり、特に「アンドン」である。何か異常が発生したら、本人または周囲の人がアンドンを引く。その昔は工場の天井から紐(ひも)が下がっていて、その紐を引くとランプが点く。そこで異常が起きていることは周囲に知らされて、仲間が自主的にヘルプに駆けつける。あるいはラインを止める。今では紐ではなくボタンであり、コンピュータ制御のもっと多機能のシステムになっている。
TPSは、基本概念として、中央集権的管理ではなく、分散的管理が根幹にある。現場でアンドンを引き、現場が相互にヘルプする。そこで管制塔の指示を待つフェイズは挟まない。異常が起きた時だけ機能する管制塔は不要になり、コストも下がるし、管理する側される側という分断も防止できる。豊田会長は自らの14年間の社長時代の仕事を振り返って「主権を現場に戻した」と表現する。それだけの時間を掛けて、現場の人たちがものが言いやすい環境を整えたのだ。
通常、製造業でラインを止めるのは、会社に大損失を与える大罪なのだが、TPSでは止めることは不良品の大量発生を食い止めた"勇者”として称賛される。だから今回の一連の不正が発覚した時、筆者はごく自然に「なぜアンドンを引けなかったのか」と疑問を持った。
十中八九、彼らの中では業務を止めるのは大罪だという認識があったのだと思う。ダイハツの第三者委員会報告書を見れば、異常を報告しても「自分でなんとかせよ」という論外な上司の存在も明らかになっている。筆者はここが最大の問題であり、裏返せば解決の糸口だとも思っている。
そもそもアンドンがちっとも引かれないことは「異常」である。現場には必ずトラブルがある。アンドンが引かれる頻度を見れば、問題が現場でもみ消されていることを「異常値」として検知できるのではないか?
だとすれば、TPS本部が軸となって、頻度をベースに常時業務をモニターし、アンドンが引かれない部署に対して「異常管理」の査察に入れば、そこで問題を把握できるはずだ。そして引かれたアンドンを黙殺する組織があってもみ消されるのだとすれば、縦割りの組織内でアンドンを見るのではなく、アンドンの灯る場所をTPS本部にしたら良い。まずは今回の不正があった3社から、TPS本部によるモニタリングを開始するべきではないか。
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