東北大が「国際化」に注力する理由 大野総長「人材の多様性なくして日本の未来なし」:東北大学の挑戦(2/2 ページ)
東北大学は「国際卓越研究大学」の認定候補に選ばれた。選出理由の一つには全方位への国際化が挙げられる。大野英男総長に、国際化と多様性を重視する意味を聞いた。インタビュー全3回の2回目。
半導体業界のハブに
――スピントロニクス半導体研究の第一人者として、半導体業界をどう見ていますか。
半導体は「21世紀の石油」「産業の米」とも言われていて、どんな活動をするのにも必要な技術です。ただ5、6年前までは「なぜ半導体の研究開発をしているのか。日本で研究成果を受け取る企業はあるのか。部品なんだから安いところから買ってくればいいのでは」とも良く言われました。
現在では地政学的な変化もあり、半導体を一定程度の水準は、国内にも確保しなければならないとの認識が定着しました。世界のサプライチェーンは地政学的環境や戦争などいろいろなものに影響されます。その中で、自力で生きていくためには何が必要なのか。それを考え、実行していかなければなりません。半導体はその「一丁目一番地」です。
日本は今まで、半導体の市場が落ち込んだとき「企業が何とかすべき」という姿勢でした。結果、苦しくなったときに、日本企業は市場から振り落とされました。半導体が必要不可欠な技術である以上、市場が低迷したとしても国の意志により支援を続けなければいけない場合もあるのではないでしょうか。実際、各国で半導体に対する支援が行われてきたのはご存じの通りです。
NANDフラッシュメモリやDRAMなどのメモリ市場は苦しい状況ですが、国を挙げて半導体の重要性を掲げている今、日本における半導体のエコシステムが消滅することはあってはならないと思います。もちろん市場というのは常に大事ですが、市場が傷んだとしても続けなければいけない場面もあると私は考えています。
――今後、東北大はどんな役割を果たしていきますか?
東北大は「半導体業界で世界のハブになる」というビジョンを持って産学連携に取り組んでいます。東北には、岩手県北上市のキオクシアや岩手県奥州市の東京エレクトロン、山形県鶴岡市のソニー、宮城県のPSMCなど半導体関連企業の拠点があります。本学と共同研究をしている企業も多数あります。
Rapidusの東哲郎会長や、小池淳義社長とも定期的にコミュニケーションを取っていますし、マイクロンやTSMCとの定常的なコンタクトもあります。材料、装置開発、設計、新技術導入と本学の半導体に関わる研究開発は盛んです。米国でトランジスタが発明された2年後から半導体研究に取り組んだ伝統もあり、半導体産業の業界標準である「300mmシリコンウェーハ」を取り扱って、省エネルギー集積回路を動作させる研究開発を展開しているのは日本では本学だけです。半導体では世界を相手にしないと価値は出せません。
――大学も企業も「国際化」が一つのカギになりますね。
半導体は良い例ですが、グローバルな社会で価値創造をするために国際化は必須です。国際社会といかに交わり、国際社会の発展を自分たちの力にして日本の発展につなげるか。そういう溶け合った形の研究大学になろうと第一歩を踏み出したところです。
産学連携については、企業と大学が研究開発を共同で実施するというイメージだけがあるかもしれません。しかし、これからはジョイントベンチャーを立ち上げるなど、大学の活動であっても事業につなげ、発展させる形で、価値創造に寄与することも重要になると考えています。
これらの取り組みを進めて、その価値を社会に認めてもらうことにより、25年後に産学連携の規模を1000億円程度にするのが東北大の目標です。企業の内部留保は500兆円ともいわれていますから、産学連携の新たなサイクルが動き始め、大学の知の価値が認められるようになると、規模を伸ばす余地が十分にあると考えています。世界では、大学の知が創薬で活用されるなど既にいくつかの例があります。
スタートアップも国際化が一つのテーマです。米国で発展し世界に拡(ひろ)がったスタートアップですが、世界と日本とのエコシステムをもっと近づけるべく努力をしています。本学からもディープテックと、社会課題の解決を目指す多くのスタートアップが生まれています。国際化することによりさらなる発展が見込まれます。
この2月には量子技術のスタートアップに関するワークショップをシカゴ大学と一緒に東京で開催しました。未知の分野だからこそ、積極的に投資をする。その姿勢は大いに参考になります。
――米国と言えば、G7広島サミットの最終日(2023年5月21日)には、ジョー・バイデン米国大統領とも面会されました。どんな話をしましたか?
バイデン大統領とは「半導体は、日米両国にとって重要な産業だ」という考えで一致しました。大統領が自ら「この機会に日米の半導体チームを作って、一緒に取り組もう」という強いメッセージを発信したことは、心強く感じました。
日米両国がしっかりと戦略性を持って連携していくことが大切だと考えています。
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