東北大・大野総長に聞く「生成AI時代の大学の役割」 人間とAIの「知性の違い」とは?:東北大学の挑戦(2/2 ページ)
東北大学の大野英男総長は、電子が持つ磁石の性質(スピン)を利用する半導体技術「スピントロニクス」研究の第一人者でもある。大野総長は、生成AIの動きをどう見ているのか。生成AI時代に大学はどんな役割を果たせると考えているかを聞いた。インタビュー全3回の3回目。
「THE日本大学ランキング」で4年連続1位に選出
――東北大は英国の日刊紙「タイムズ」が発行する「Times Higher Education(THE:タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)」の「THE日本大学ランキング」で4年連続1位に選出されています。
教育に焦点を当てた本ランキングで高い評価を得たことは、私たちが進めてきた教育に関する取り組みが、外部から見ても良いものであったのだと心強く思っています。ランキングを意識して活動をしているわけではありませんが、国際性に関しては特に力を入れています。THEには4つの評価項目があるのですが、中でも国際性で高い評価を得ています。
本学では19年に、留学生や日本人、海外の学生が一堂に会して、グローバルな問題を議論し多彩なテーマに取り組む「国際共修ゼミ」を始めました。最初は十数クラスでしたが、今では70クラスになり、学生からも人気を博しています。
開始して1年後にコロナ禍になりましたが、早い段階でテクノロジーの力を取り入れました。海外の学生も含めてメタバースを使う授業を20年度に始めるなど、学生が国際感覚を磨きながら成長する場を常に作り続けている点は、評価されたと思っています。
国際混住型学生寄宿舎「ユニバーシティ・ハウス」もあります。最も新しいユニバーシティ・ハウス青葉山は定員752人、ユニバーシティ・ハウス全体で1720人分の部屋があります。大学院生も含めた本学の学生数1万8000弱のうち、1割程度が入居していることになります。大体2年ぐらいで交代する仕組みにしています。
8LDKで寝室は個室ですが、リビングルーム・ダイニングルーム・キッチンは共用です。学生は時に摩擦も経験しながら「国際性とは何なのか」を肌感覚でもつことができます。留学生にとってはみそ汁の匂い、日本人にとって多様な料理やイスラム教の習慣などに生活を通じて接することで、お互いに対する理解が深まり、グローバルな視点や行動が身に付くのです。このような国際的視点を養う教育を重要視しています。
――東北大は開学の理念の一つに「門戸開放」を掲げ、1907年の開学から6年後の13年に黒田チカ、丹下ウメ、牧田らくという3人の女性の学生を日本で初めて受け入れました。ダイバーシティーを100年以上前から重視していたといえますし、今の時代にも通ずるところですね。
大学が社会と共創し未来を形づくるには、ダイバーシティーは不可欠です。ジェンダーのバランスも取れていなければなりません。多様な物の見方がないと、社会を発展させていくことはできませんし、多様な物の考え方ができる組織でなければ、社会にインパクトを残せません。本学は国際卓越研究大学の応募の際に「未来を変革する社会価値の創造(Impact、インパクト)」を掲げています。これを大きな流れにしていく意味でも、多様な見方が絶対に必要です。
国際卓越研究大学は25年間のプログラムです。四半世紀後を見据えつつ、Impactと「多彩な才能を開花させ未来を拓く(Talent、タレント)」、そして「変革と挑戦を加速するガバナンス(Change)」で掲げた多様かつ多彩な取り組みが既にスタートしていることを、少しでもお分かりになっていただけたらうれしく思います。
これらの取り組みが成果をあげる中から、多様かつ多彩な人材が巣立っていく。それこそが21世紀型の研究大学である東北大学の姿です。ご期待ください。
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