3Dプリンタを駆使した「グミ状のサプリ」 健康志向の日本市場を狙う
グミ状で、1粒で必要な成分が取れる英国発のサプリ「NOURISH3D」(ナリッシュ3D)。顧客1人ひとりのニーズに合わせてカスタマイズできる優れた利点を持つ。創業者兼CEOに、ベンチャー精神やアイデアの源泉を聞いた。
サプリメントは錠剤で飲むイメージがあり、摂取しやすいものではない。だが、もしグミ状で、しかも1粒で必要な成分が取れるとしたらどうか? それを実現したのが、英国発の「NOURISH3D」(ナリッシュ3D)という名前のサプリだ。
このグミのサプリは、3Dプリンタを使い、7層の栄養成分が積み重なったレイヤー状にして製造される。顧客1人ひとりのニーズに合わせてカスタマイズできる優れた利点を持つ。
1月18日から2月5日まで東京・渋谷のスクランブルスクエアでNOURISH3Dのポップアップストアを開設。これに合わせて来日したスタートアップ 「Rem3dy Health」(レメディ・ヘルス)のメリッサ・スノーヴァー創業者兼CEOにインタビューした。彼女のベンチャー精神やアイデアの源泉とは。
健康志向の高まり 日本のサプリ市場は拡大
日本は高齢化が進んでいることもあり、健康への意識が高い。米商務省国際貿易局(ITA)が2021年8月に発表した「JAPAN DIETARY SUPPLEMENTS MARKET UPDATE」によると、栄養補助食品市場は94億米ドルと、世界第3位とされている。
22年10月に富士経済グループが発表したサプリメントの国内市場調査によると、新型コロナウイルスの影響もあり健康志向が定着。22年は前年比2.3%増の1兆651億円となった。
矢野経済研究所の「2023年版 健康食品の市場実態と展望〜市場調査編〜」では、機能性表示食品の食品種類別構成比(21年度)を調査していて、サプリメントの割合は40.5%を占めた。このようにサプリは高齢化と健康志向と相まって、日本市場で将来性が高い商品であることは明確だ。
600億の組み合わせ 最適な7つの栄養素を1つに
錠剤ではなく3Dプリンタを駆使してグミ状のサプリを販売するナリッシュ3Dは、同社のWebサイト上で、睡眠、体調、食生活、運動頻度、味の好みなどの健康状態を回答し、それに基づき、600億通りの中からベストな7種の栄養素を1粒にしたサプリメントグミを製造。客に送り届ける。
ヴィーガン対応で、アレルゲン不使用の原材料であり、コーティングは天然甘味料(エリスリトール)から作られているため、砂糖は一切使用していない。料金は1箱28粒で毎月届ける定期購入(8000円)と1回分(1万2000円)がある。Webサイトで注文して手元に届くまでは約2週間だ。
そもそもこのユニークなビジネスを立ち上げた経緯は何だったのか。
「16歳からベジタリアンになりました。兄弟はグルテンアレルギーだったのですが、今よりもベジタリアン向けの製品が少なかったため、いろいろと苦労しました。そこで10年に自らヴィーガン向けおよびアレルゲンフリーのグミを製造する食品会社『Goody Good Stuff』を立ち上げました。
欧州のあちらこちらに工場を作り生産していましたが、当時の従来型の製造方法では、細かいところで融通が利かず、フラストレーションを抱えていました。そこで3Dプリンタを使って製造可能な技術を開発し、製造を始めました。18カ月が経ったとき、思ったよりも素晴らしい技術であると確信を持ち、新しい事業として立ち上げることを検討しました」
14年にGoody Good Stuffを売却。その資金を元手に20年にレメディ・ヘルスを設立。今は米国と英国で販売し、累計600万個を販売している。
サントリーホールディングスから出資
23年8月にサントリーホールディングスの出資を受け、海外3カ国目となる日本に上陸した。確かに少子高齢化による健康志向という観点から考えると、ナリッシュ3Dの製品は日本市場にぴったりだ。しかし、総人口が減少している事実は、中長期的にみると市場として魅力的とは考えにくい。
「少子高齢化は欧米も同じく起こっています。また、日本人は健康志向です。英国でもそうなのですが、更年期障害の方で製品を使用する方もいます。(人口減少や少子高齢化は)日本進出をちゅうちょする理由にはなりません」
進出にあたりサントリーホールディングスの出資も受けた。
「サントリーが当社に投資することを大変うれしく思います。サントリーは日本有数の食品・飲料会社で、業界の専門知識だけでなく、ナリッシュ3Dの使命とシームレスに一致するイノベーションへのコミットメントをもたらしてくれます。サントリーのモットーである『やってみなはれ』は、私たちの理念と同じです。このような考え方の相乗効果と、私たちのビジョンと戦略に対するサントリーの信念が相まって、サントリーは私たちにとって理想的な投資家となっています。資金的な支援にとどまらず、この業界を革新しリードしていこうという私たちの野心への賛同でもあります」
日本での販売目標について問うと「基本的にオンラインで販売というサブスクの形態をとるので、毎年、年間1万人の定期購入者を増やしていくことを目標にしています。今回、渋谷にポップアップストアを出しましたが、いずれは小売店も出したいですし、24年には日本で製造拠点を持ちたいと考えています」と話し、日本市場に注力するようだ。
「英米でのメインの顧客層はMVC(Most Valuable Customer)と呼ばれる30〜45歳の子どもがいて、仕事でもやることが多く、ストレスにさらされている人たちで、教育水準も高い人たちです。日本でもそういった人たちにフォーカスをしますが、こと日本においては、子どもからお年寄りまで生活に取り入れられやすい製品だと感じました」
幅広い世代に商品をアピールするつもりだ。
日本人は安全に敏感な国民で、とくに食の安全には非常には気を使う。
「米の食品医薬品局(FDA)の認証を受けています。年間10万件以上の商品テストを実施し、安全な商品であり続ける努力をしています。まだ、知られていませんから、メディア、SNS、店頭、ウェブサイトなどを通してさらに周知していきたいと思っています」
栄養成分は全部で60種類ほどあり、国ごとに取り扱い可能品目は異なる。日本では食品衛生法をクリアした32種類で展開する。
「もちろん各国の規制は必ずチェックしています。どの成分がどのくらいまで使用可能なのかも確認しています。国の法律に合わせて製造できるのが3Dプリンタのメリットです」
起業家だがエンジニア気質を持つ
3Dプリンタを使って製造するというのは、今の時代を象徴している。
「熱溶解積層方式(FDM)という技術を使っていて、一定数を確保するために使い始めました。3Dプリンタは流行していたものの、食品分野ではそれほど多く使われていなかったのです。ECサイトで3Dプリンタの本をたくさん買って、読みあさり、プリンタ自体も自分で購入して、解体してどういう仕組みになっているのかなど、1から3Dプリンタの勉強を始めました」
解体作業まで自らしていて、さながら機械工学のエンジニアのようだ。
日本のポップアップショップに持ってきたのはデモ機だが、工場で実態に使われている独自開発したプリンタは、28個のグミを5分で製造できる。ちなみに1号機の製作には6カ月かかった。
「全部自分でやりました。適正容量の誤差プラスマイナス1%で栄養成分がノズルから出るという正確さ、従来の固体の成分をペースト状にし、ノズルから出た後はすぐ固まるようにするなどは、マシン開発においてとても難しかったです」
この3Dプリンタを含め、Goody Good Stuff時代から今までに計21の特許を取得している。
7層からできている意味については「英米のサプリのヘビーユーザーの調査をしたところ5〜8種類のサプリを摂取することが分かりました。私も7種類のサプリを摂取していたので、この数字にしました」と笑った。
サイズの根拠についても聞いた。
「コンパクトでありながら、1日1個でも十分な栄養成分を取れるようにしたいと思っていました。1層あたりおよそ1.5グラム位なのですが、これだけあれば1日に必要な成分量を取れますので、このサイズ感になりました」
実際の商品を見ると、カラフルでひと口サイズ。かわいらしく日本市場でも受け入れられそうだ。
「小売の観点から見ると、商品のユニークさをアピールできますので、見た目の美しさが重要です。小売製品には『STACK』(積み重ねる)という名称を付けましたが、最近、英国などでは『グミを食べた』とか『摂取した』という言い方ではなく『スタックした』という風に使われるようになってきました」
インターネットで検索する時「ググる」という言葉があるが、それに近い言葉遣いをされるようになった。
「ブランドを高めるために、言葉というのは重要です。『NOURISH3D』の本当のスペルは『NOURISHED』ですけど、EDのEを数字の3を代用することで『3D』の商品であることも分かるようにしました。言葉の力を信じているからです」
スノーヴァーCEOは、起業家だ。だが、機械を分解したりするエンジニア気質を持つなど探求心が強く、食品を扱っていることもあって、全てにおいて緻密だ。レッドオーシャンであるサプリメントの市場において後発企業が成功するには、発想とイノベーションが必要だ。それができれば市場攻略は可能なのだ。
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