佐々木俊尚に聞く エンジニアの「キャリア自律」のために必要なこと(2/2 ページ)
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、まだ日本で「ノマド」という言葉が知られていなかった時代から、自分自身で人生を切り開かなければならない時代を予見し、自由な働き方や自律的なキャリア形成を提唱してきた。佐々木氏に自らのフリーランスとしての働き方の変遷や、エンジニアが「キャリア自律」を実現するために何が必要なのかを聞く。
エンジニアの「キャリア自律」の課題とは
――PE-BANKは企業に所属するエンジニアの「キャリア自律」を支援する福利厚生サービス「Pe-BANKカレッジ」を始めました。このようなサービスが生まれる背景として、エンジニアの場合、なかなか自分1人では自律的なキャリアを築きにくいといった課題があるのでしょうか。
問題はいくつかあります。1つは会社員なので、その会社が持っている技術基盤の上でしか技術を追求できないことです。もう1つは、技術の進化が速すぎることによってキャッチアップするのが大変で、しかも数年後にはどうなるか分からないことです。なくなる技術となくならない技術があって、何がなくならないのかを見分けるのは難しい。
10年前にFlashがなくなると言ったら、みんな驚いたでしょう。今は影も形もないじゃないですか。ChatGPTがどんどん進化すると、ノーコードどころか質問だけでコードが書けるようになるかもしれません。エンジニアの仕事自体が変わってくる可能性があります。
――そうなると、今のままでは大変だと思っている人は多いのではないでしょうか。
会社の縛りがあることと、先の見通しができない中で、会社を辞めるのはあまりにも極端だけど、いつでも会社を辞められるようにしておく準備は大事です。
知り合いに、Webディレクターをしている40歳くらいの女性がいます。最初は広告制作会社でAdobeのツールを使った仕事を10年ほど経験して、その後は転職を3回、4回と繰り返していました。どうしてそんなに転職するのと聞いてみると、広告制作会社ではクライアントの仕事しかしていないので、次はECサイトを作る事業会社に行き、さらに最先端のアドテクを学ぶために次の会社へと移っていったそうです。
彼女の場合は所属する会社がどんどん変わる一方で、自らのWebディレクションの専門性を積み上げています。最近はそういう人が増えているのかもしれません。今一番大事なのは、彼女のように何かの専門家であることです。ただ、あまり隘路(あいろ)に入りすぎると、今後なくなる技術もあるので、Web部門やメタバース部門など、あるジャンルで最先端を追いかけ続けるといった専門性が必要ではないでしょうか。
――日本の大企業では、さまざまな部署を経験するケースも少なくないと思います。
大企業では一つの会社で、現場も、営業も、総務もやりましたというケースが多いですよね。ある人材企業の人は「あの人たちはみんな自分をゼネラリストと言いますが、ゼネラリストではありません。その会社の専門家です」と話していました。どう動けば上に話を通しやすくなるとか、そういう専門性ですよね。
――エンジニアに限らず、どの業界もそうですが、40代や50代の人がこれからのキャリア自律を目指そうと思っても、何から始めればいいのか分からない人もいると思います。どうすればいいのでしょうか。
普通に考えて、50代でゼロベースから新たに始めるのは無理です。全くゼロから始めることができるのは、30代くらいまでではないでしょうか。今まで自分がやってきたことの棚卸しをまずきちんとして、その中でこれから始めるにあたって、ベースになるものがあるかどうかをとらまえることが最も重要だと思います。
もちろん、趣味を仕事にする人も稀にいます。30年間同じ趣味を続けていると、ひょっとするとそれが仕事になることもあるかもしれません。いずれにしろ、仕事や趣味、他のことも含めて、自分が人生でやってきたいろいろなことを、全て棚卸しするところからしか始まらないでしょう。若い人はその点をきちんと意識した方がいいですよね。全くゼロから新しいものを作るのは無理なので、30代のうちにベースを作って、ある程度決めておいた方がいいと思います。
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
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