EV減速の中でもっとも注意すべき政策:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
EVシフトの減速を示すニュースが次々に発表されている。こうなるのはずっと前から分かっていたことで、ようやく世間が悪夢から覚めたということになるだろう。筆者は国が一度方針を決めると、状況が変わろうが何だろうが、ひたすら決めた方針通りに進むという点を一番恐れている。
内燃機関への投資ができなくなっている
さて、そして一番大事な話である。筆者は国が一度方針を決めると、状況が変わろうが何だろうが、ひたすら決めた方針通りに進むという点を一番恐れている。
役人は先輩がやったことを否定できない。過去に決まったものは決して間違っていてはいけないし、そこには大きな予算が付き、事業を引き受ける外注先も全部セットアップできているので、何がなんでも変えられない。
菅政権はそういう無茶なジャンプを飛んで、判断を間違えた。その結果、あの当時の勢いでスタートした事業が今まさにシステムとなって動いている。それが経産省が進める「自動車部品サプライヤー事業転換支援事業」。通称「ミカタプロジェクト」である。その説明は経産省のサイトから抜き出してみる。
経済産業省は自動車産業「ミカタプロジェクト」を推進しています。ミカタプロジェクトとは、自動車産業に関わる中堅・中小企業者の脱炭素に向けた『見方』を示し、企業の『味方』としてサポートする事業です。具体的には、自動車の電動化の進展に伴い、需要の減少が見込まれる自動車部品(エンジン、トランスミッション等)に関わる中堅・中小企業者が、電動車部品の製造に挑戦するといった「攻めの業態転換・事業再構築」について、窓口相談や研修・セミナー、専門家派遣等を通じて支援する事業です。
この事業が、マルチパスウェイの一環として、電動車部品生産をアドオンしていくという話ならば問題ない。それは健全な話である。しかし問題は「自動車の電動化の進展に伴い、需要の減少が見込まれる自動車部品」の解釈である。需要の減少ペースをどう捉えているか、それは同時に電動化部品の需要増加のペースの話でもある。これが「内燃機関部品を即時止めて可及的速やかに電動化部品に切り替えろ」という話であれば、ペース配分見直しの世界の流れに逆行する周回遅れ政策である。
いま、地方のサプライヤーの間から、「今さら内燃機関用の投資のための融資なんてできません」とメインバンクである地銀から融資を断られる話が聞こえてきている。そのあたりがかなりきな臭い。
冒頭で触れた通り、BMW、GM、フォード、テスラ、リビアン、アップルなど、多くの会社が、EVシフトの先行きの見込みをマイナス修正している最中に、内燃機関への退路を絶って、電動化部品一本足に追い込むようなことがあってはならない。ということで、今筆者はこの関係を追跡調査中である。引き続きその行く先に注意を払っていきたい。
プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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