朝のラッシュ時に、なぜ関西の私鉄は「有料座席サービス」を導入できるのか:関東との違い(4/4 ページ)
阪急電鉄が7月から有料の座席指定サービス「PRiVACE」を開始する。関西の鉄道では近年、類似のサービスが次々と導入されているが、なぜ関東の鉄道では見ないのだろうか。
関東はどうなの?
関東でこういったことはできないのだろうか……と嘆く人も多いだろう。京王電鉄が運行する「京王ライナー」などの全席有料座席指定サービスや、小田急の「ロマンスカー」といった特急はもちろんある。東急電鉄には「Qシート」という有料の着席車両があって、夕方から夜間にかけて走行している。京急電鉄には朝と夜に全席指定列車があって、休日には「ウイング・シート」を導入している。
関東圏の鉄道の特徴として、混雑が激しいというのが何よりも大きい。朝の通勤通学時には多くの人が集中するので、JR東日本で房総特急の一部や特急「湘南」を走らせている程度だ。
JR東日本の中距離電車ではグリーン車こそあるものの、ラッシュ時は乗客でいっぱいだ。「京王ライナー」などは全車両ロングシート・クロスシートが転換できる座席であるものの、ラッシュ時はロングシートで走る。東急電鉄の「Qシート」は一部車両のみロングシート・クロスシート転換ができるものの、朝の時間帯はロングシートである。
関西の私鉄は競争がある一方で、朝ラッシュ時にも着席サービスを提供できるだけの余裕があるといえる。そもそも朝ラッシュ時でもふつうに転換クロスシートの速達型車両が走っている。それゆえ、ある程度ゆとりのある空間を生かすという発想が生まれ、客単価を上げるという流れも生まれた。
一方の関東は、鉄道会社ごとの競争はなかなか見られないものの、押し寄せる人にどう対処するかという課題がある。
阪急電鉄は、客単価アップだけなら転換クロスシートの1両を座席指定にするだけでも良いだろう。しかし厳しい競争環境の中で優位性を保つには、「PRiVACE」のようなサービスが必要なのだろう。
事業環境に適したサービスを、関西の私鉄は提供している。関東でも提供を考えている鉄道会社はあるはずだが、「いまのところ難しい」と判断しているのだろう。
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