ようやく制度化「セキュリティ・クリアランス」とは? 民間企業にどう影響するのか:世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)
閣議決定されたセキュリティ・クリアランス法案は、民間企業の従業員も無関係ではない。先端技術分野も機密情報となり、情報を扱うための適性評価の対象が民間にも広がるからだ。プライバシーの懸念も出ているが、国の安全と発展のために不可欠な制度だといえる。
どこまでプライベートを調査される?
そこで筆者は最近、特定秘密保護法や公務員法などに絡んで、現在使われている適性評価の適格性の質問票を入手した。これと同じような項目を、セキュリティ・クリアランスの適性評価でもチェックされることになる。どこまでプライベートなことを聞かれるのか、ここで紹介しよう。
例えば、外国人に知り合いがいるかどうか。「外国人に身元の保証や住居の提供は行ったことがあるか」と聞かれる。さらに外国人から「飲食接待を受けたことはあるか」という質問項目もある。
また、犯罪歴や懲戒処分の経歴も問われる。さらに、業務上の秘密を部外に漏らしたことはあるか。会社などで指導監督上の措置を受けたことがあるかも聞かれる。
違法な薬物の使用や、精神疾患の治療歴も答える必要がある。「薬物を容量を著しく超えて服用したことがあるか」という質問もある。また、躁うつ病や統合失調症になったことがあるか。精神的なカウンセリングを受けたことがあるかも聞かれる。
加えて、飲酒量についても答える必要がある。過去に酒でトラブルを起こしたことはないか、依存症ではないか、などだ。個人の経済状況も問われ、借金やローンの有無、自己破産歴なども聞かれる。
こうしたプライベートな部分まで適性評価は及ぶ。これから日本政府や政府機関が絡んだり、国家間の技術開発に関わったりするビジネスや事業にどこかで携わる民間企業や民間の研究者などは、この適性評価をパスしないことには、開発チームから外されたりプロジェクトやビジネスに関われなくなったりする可能性がある。
もしあなたが、会社などでこうした質問に答えなさい、と指示されたらどう思うだろうか。日本では違和感を覚える人がいるかもしれない。その背景には、日本特有の労働環境に関する事情がある。厚生労働省は、民間の事業者に対して、雇用に関して、就職希望者や従業員に国籍や通称、犯罪歴、懲戒歴などを聞いてはいけないと指導している。だがセキュリティ・クリアランスではそれ以上に突っ込んだ質問をすることになり、そこに整合性がなくなるとの批判も出ている。
関連記事
- 中国出張でPCは“肌身離さず”でなければいけない、なぜ?
昨年、中央省庁の職員3人が中国出張中、PCに不審なマルウェアを埋め込まれていたことが分かった。わずかな時間でホテルの部屋に侵入されたという。特に海外出張では、PCを常に携行するなど、警戒を強めて行動することが必要だ。 - 米カジノ運営元が「ランサムウェア」被害 20億円の身代金を支払って“しまった”理由
9月に入って、米ラスベガスのカジノ運営元が、相次ぎ「ランサムウェア」の被害を受けた。このうち、1社は身代金を支払ってしまったという。「身代金を支払わない」が基本対応にも関わらず、支払った背景には企業なりの理由があった。 - 激化するサイバー攻撃への切り札 「脅威インテリジェンス」が抱える課題
近年、企業などへのサイバー攻撃の数は見過ごせないレベルにある。そんな状況から、近年、通常のセキュリティ対策だけでなく「脅威インテリジェンス」と呼ばれるセキュリティ対策が注目されるようになった。 - 台湾の「海底ケーブル切断事件」は対岸の火事ではない 経済・ビジネスにどんな打撃が?
台湾メディアが、2月2日の夜に「台湾の本島と離島の馬祖列島を結ぶ通信用の海底ケーブルが切断された」と報じた。海底ケーブル切断は経済・ビジネスに多大な影響を与える可能性が高い。どういうことかというと…… - 「サイバー攻撃対策」が、政府・企業の最重要課題になり得るワケ
2023年、サイバー攻撃対策が政府や民間の最重要課題の一つとなることは間違いないだろう。サイバーセキュリティを専門に扱う筆者が、そのワケを解説。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.