裏ワザ的「初任給40万円」が、会社を弱体化させかねないワケ:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
アパレルブランドを運営するTOKYO BASEは、3月12日に初任給を一律で40万円に引き上げることを発表した。しかし、80時間文の固定残業だが含まれる額だという。就労条件に対するリテラシーが乏しい新卒者に向けて額面のみを強調する同社の姿勢には、危うさを覚えざるを得ない。
近年、新卒採用市場の競争は一段と激化している。企業は限られた優秀な人材を確保するため、従来の枠を越えた施策を導入しており、中でも話題となっているのが「初任給」の増額だ。
産業総合研究所が公表した2023年度の決定初任給額は、大学卒で21万8324円、高校卒で17万9680円であった。22年度と比べた初任給額の増加率はバブル崩壊後の1993年度以来、30年ぶりに2%を超えたという。
中には、初任給が30万円から40万円という破格の金額を提示する会社も増えている。新卒の就業希望者にとって大きな魅力となる高額な初任給だが、条件の提示方法に問題があるのではという懸念の声もある。
TOKYO BASE「初任給40万円」のカラクリ
アパレルブランドを運営するTOKYO BASEは、3月12日に初任給を一律で40万円に引き上げることを発表した。そもそも同社はこれまでに30万円の初任給を提示していたこともあり、もともと初任給の高い会社だという評判があったが、さらに10万円上乗せし、相場の2倍という高額の初任給を提示したことが話題となった。
しかし、この発表をよくよく見ると、基本給は20万3000円で、固定残業代が80時間分で17万2000円、その他手当2万5000円を合算した金額という。
他にも、高額初任給を提示する多くの企業で、「固定残業代」を数十時間プラスした上で30万円、40万円といった金額を標榜(ぼう)している。これらの会社に共通するのは、基本給があくまで20万円台前半であることだ。
今日では、企業が新卒社員を獲得するために、より高い給与を提示することは珍しくなくなっている一方で、就労条件に対するリテラシーが乏しい新卒者に向けて額面のみを強調する姿勢には危うさすら覚える。
また、急激な賃上げについても、組織内での不調をきたす恐れがあり、一概にポジティブとは言い切れない。
高額初任給がもたらす既存社員への悪影響
固定残業代を初任給に含めること自体が問題ではないが、これが明確に説明されていない場合、求職者が実際に基本給として受け取れる金額を誤解する可能性がある。固定残業代込みであることを十分に説明しないと、実際の労働条件との間に乖(かい)離が生じることになる。
冒頭で紹介したTOKYO BASEは、ニュースリリースにおいて基本給と固定残業代の内訳を明記しておらず、ただ改定後の初任給が40万円とだけ記されている。
固定残業代込みで高額な初任給を提示された場合、求職者は高収入を期待するかもしれない。しかし、実際にはその一部が固定の残業代であるため、基本給が思ったよりも低いことに後で気付く場合がある。
仮にボーナスの体系が「基本給の◯カ月分」という決まりであった場合、実際に新卒者が受け取るボーナスは想像の半分程度まで落ち込む可能性があり、モチベーション低下につながりかねない。
また、固定残業代が初任給に含まれる場合、実際にどの程度の残業が想定されているのかが不透明な場合もあり得る。これにより、実際の労働負担が事前の想定を大幅に上回ることも考えられる。
もちろん、固定残業代とは、1時間たりとも残業しなくても残業代として規定額が支給されるため、残業がない会社であれば実質的に基本給が高いと言っても差し支えない。
しかし、そうであるならばわざわざ固定残業制を取らずとも、基本給を上げれば良い話である。
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