裏ワザ的「初任給40万円」が、会社を弱体化させかねないワケ:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
アパレルブランドを運営するTOKYO BASEは、3月12日に初任給を一律で40万円に引き上げることを発表した。しかし、80時間文の固定残業だが含まれる額だという。就労条件に対するリテラシーが乏しい新卒者に向けて額面のみを強調する同社の姿勢には、危うさを覚えざるを得ない。
では、どうすれば良いか
固定残業代について十分な説明がないまま、見た目上の待遇を改善する動きは後々、不適切な商行為と見なされ、社会問題化する可能性がある。
企業は固定残業代を含めた給与体系を提供する際、その内容を明確かつ詳細に説明する責任がある。具体的には、基本給、固定残業代(含まれる時間数)、その他の手当の詳細を、求職者に対して透明性高く提供すべきだ。
月当たりの残業時間の多寡に応じて、支給額がどう変わるのかなど、事例を用いた誠実な説明が必要だ。
また一足飛びな一律昇給だけでは、後から入った従業員は不公平感を覚えるだろう。場合によっては、新卒社員は何もせずとも先に入った従業員の5年分、場合によっては10年分ほどの昇級幅を一気に飛び越す可能性がある。企業は既存社員のモチベーションを保つために、給与体系の透明性を高め、公平性を確保する必要がある。
初任給やベースアップだけに頼るのではなく、企業は新卒社員に対して、住宅補助や福利厚生の導入など、給与以外の待遇も向上させると不満は出にくくなる。
給与に関しては、ベースアップと同時にパフォーマンスに基づく評価と報酬システムを導入することで既存社員のモチベーションを大きく毀損することなく新卒者に対する賃上げ圧力にも対処できるようになるだろう。
固定残業代込み初任給が就活市場を破壊する
固定残業代なども初任給に含めて良いという風潮がこれ以上拡大すれば、実態の不明な「残業時間」のせいで本質的な待遇がブラックボックス化し、就職希望者が企業を正確に横断比較できなくなる。
リテラシーが乏しい学生をごまかすことはできても、入社後に知見を付ければほころびはいずれ明らかになる。高額な初任給をうたうことは、新卒社員の獲得という点では一時的な効果があるかもしれないが、長期的な視点で見ると多くの課題を抱えていると言わざるを得ない。
高額初任給にひかれて入社した社員も、給与以外の満足度が低い職場環境では、長期的に企業にとどまる動機を失いがちだ。特に若手社員が早期に離職すると、企業は人材育成の投資を水の泡にしてしまう。また、不公平感を抱えながら働く既存社員の職務満足度の低下も、組織全体の生産性と革新性の低下につながる恐れがある。
競争の激しい今日のビジネス環境において、真に優秀な人材をひきつけ、保持するためには、やはり誠実な情報の公開と既存社員への配慮は欠かせないだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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