ユーザーから厳しい評価も? 「ダイソー」初の公式アプリ、使ってみて分かった課題と可能性(3/3 ページ)
100円ショップ「DAISO」などを展開する大創産業が「初」の公式アプリをリリースした。店頭の在庫などを確認できる仕様で、100円ショップとしては非常に珍しいアプリだ。実際に使って課題や将来性を考えてみた。
オムニチャネル戦略の一環か
DAISO アプリの仕様は、いわば実店舗とアプリ、ECを連係する取り組みといえる。こうした取り組みは「オムニチャネル」戦略と呼ばれる。「全ての」を意味する「オムニ(Omni)」と、客と企業の接点を意味する「チャネル(Channel)」を合わせた言葉であり、顧客接点を連係しながら活用し、消費機会を増やす戦略を意味する。
似た概念である「マルチチャネル」と比較すれば、理解を深めやすい。マルチチャネル戦略では、実店舗・EC・SNSでの宣伝など、各チャネルを別々に機能させる。ECと実店舗の消費者を別々に扱っており、EC客を実店舗に呼び込むことは想定していないような状態だ。極端な例として、実店舗とECで別々の会員登録を求めたり、ポイントを共通化していなかったり、といった状況が挙げられる。
一方、オムニチャネルではEC・実店舗・宣伝などを連係し、総合的な集客や売り上げアップを図る。例えば、店舗の商品棚でスキャンしたQRコードを基に、ECで注文できるような仕組みが該当する。DAISO アプリのように、実店舗の在庫を消費者に示して来店を狙うのも、オムニチャネルの一環だ。目当ての商品が店舗になければECでの購入を促せるし、アプリ上の宣伝は店舗・ECにおける購買意欲の向上に貢献するだろう。
他社が展開しているオムニチャネル戦略では、ニトリが提供している「ニトリアプリ」は「店内モード」を使えば、店舗在庫だけでなく店内における商品の場所までアプリで把握できる。DAISOでは客が店員に商品棚の場所を聞いている場面をよく見かけるため、商品棚の位置までアプリで表示できるようになれば、業務効率化にもつながるかもしれない。
別記事(『無印、3COINSを脅かす? ダイソー系列のこだわり「300円ショップ」が急増している背景』)でも紹介したが、100円ショップ業態は規模拡大を続けてきたとはいえ利益は減少傾向にある。売価を100円に固定している一方、原材料費や人件費が上がり続けてきたためだ。近年、海外の安いコストに頼るビジネスモデルは限界を迎えており、DAISOで200円以上の商品を扱うようになり、300円ショップ業態であるStandard ProductsやTHREEPPYの出店を強めている。利益率を上げたい狙いがあるのは明白だ。
新アプリによるオムニチャネル戦略も、1店舗当たりの売り上げを伸ばし、少しでも利益を上げたい狙いがあるのだろう。原材料費や人件費の圧迫に直面しているのは100円ショップ業態だけではない。DAISOのような在庫検索アプリは今後、他の小売チェーンでも導入が進むかもしれない。
著者プロフィール
山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 X:@shin_yamaguchi_
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