4月から義務化 イオンシネマ問題が示唆する「障害者への合理的配慮」の難しさ:線引きはどこだ(2/2 ページ)
「合理的配慮」とはどのようなもので、企業としてどう在るべきか?
イオンシネマのスピード謝罪は安直だったのか?
そうであるにもかかわらず、一部ではイオンシネマが即座に謝罪文を出したのが安直だという意見も目立った。実際に、イオンシネマ公式アカウントの投稿には、「イオンシネマは悪くない」といった内容や、「現場スタッフの聞き取りなどに十分な時間をかけたわけでなく、現場の労働者を蔑ろにしている」という意見も多く見られる。
しかし、迅速な謝罪は、企業として問題に対処し、顧客の不満を速やかに解決しようとする姿勢を示すものであり、企業のイメージに大きな損害を与えかねない問題について迅速な対応を行うことは企業危機管理上の定石であることは確かである。
ただし、日々、多様な顧客の要望に対応しなければならない現場のスタッフからすれば、納得いかないのも当然である。時には安全や運用上の観点から困難な判断を迫られることもあるにもかかわらず、こうした現場の状況や労働者の苦労を十分に考慮せずに自分たちを悪者と決めつけられたと考えたら、労働者の士気低下や、今後の類似の問題への対応を躊躇させるリスクも大きい。
このような状況を放置すると、次第に労働者は障害者の求める配慮が過剰であったとしても声を上げることができなくなり、組織的な不和の原因となりうる。
企業は、顧客からの苦情に対応する際には、外部へのコミュニケーションだけでなく、内部のスタッフの立場や労働環境を保護するバランスを取ることが重要である。
具体的には、謝罪とは別に、問題が発生した際の内部調査を通じて、現場の労働者の声を聞き、適切な状況把握を行うこと。そして、社内での教育や訓練を強化し、類似の問題が再発しないよう予防策を講じることや情状によっては、処分を取り消したり、対応に問題がなかった点を少なくとも社内で発信することが求められるだろう。
顧客と従業員の関係では、常に「顧客」が第一であるのが民間企業の不文律である。しかし、顧客の満足は、顧客と接する従業員から生まれるものである。企業としては、「合理的配慮」を、該当する顧客だけでなく、従業員に対してもバランスの取れた対応ができるかが、今後の企業の持続可能性と社会的責任を果たす上での鍵となるだろう。
義務化が社会的分断を深刻化させないために
この法律の改正と合理的配慮の義務化は、障害のある人々がより公平な環境で生活し、働くことができるようにするための重要なステップであることは確かである。
しかし、障害者へのサービスが過剰となり、それが常態化してしまうと、サービス価格が上がったり、経営が立ち行かなくなる可能性もある点でデメリットが目立つかもしれない。
また、そのような対応により、健常者と障害者の間で社会的な分断が深刻化するリスクについても慎重に議論しなければならない。
政府側も民間企業に合理的配慮を「丸投げ」するのではなく、ケースワークや具体的な対応方法の事例など、基準となるべき考え方を提示しなければ、この義務化も早晩に形骸化してしまうだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら
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