住友商事「学生が面接官を評価」 “選ぶ者”と“選ばれる者”の力関係が変わるワケ:働き方の見取り図(2/3 ページ)
住友商事が、学生が面接官を評価する制度を導入するという。学生優位の「売り手市場」の中、会社と求職者の力関係や、人事の役割に従来とは異なる変化が生じている。
大企業は求職者を一方的に選べる「強者」といえるのか?
では、5000人以上の会社のように求職者側からの人気が高い場合は、会社側が求職者を一方的に選ぶ力関係なのかというと、決してそうとは限りません。
大企業であっても会社側が求職者に選ばれている面があります。ポイントは大きく3つです。1つは、複数の内定を獲得する求職者がいること。新卒でも中途でも、自社が採用したいと考えるような有能な求職者は、他社も採用したいと考えている可能性が高くなります。
もう1つは、選考が始まる前に、そもそも選考を受けるかどうかの選択が求職者側にあることです。求職者は、業種や職種、勤務地、給与などさまざまな条件と照らし合わせて応募先を選択します。会社が選考できるのは、あくまで応募してくれた求職者に限られます。
3つ目は、働き手の志向性が多様化する中、大企業であるだけが就職先選びの決め手になるとは限らないことです。「大企業だから応募したけど、情報収集するにつれて他の会社の方に魅力を感じるようになった」ということも起きます。求職者側が辞退する可能性も踏まえると、会社と求職者は決して一方的な間柄だとは言えず互いに選びあう関係なのです。
このように大企業であっても求職者側から選ばれる面がありますが、その上いまは売り手市場なだけに、求職者が入社した後も会社にとって悩ましい状況をもたらしています。人材が有能であればあるほど引く手あまたであり、一方で多様な転職サービスが広がりを見せているため、いまいる社員がずっと長く働いてくれるかどうか分からないからです。
民間の職業紹介サービスに登録するおよそ7割は、在職中だと言われます。新卒入社した会社に定年まで勤め上げることが一般的だった時代とは異なり、いまは転職も珍しくありません。副業する人も増え、SNSなどでも外部と常につながりが持てるようになりました。ソーシャルリクルーティングや、知人から会社に推薦されるリファラル採用など、積極的に活動していなくても転職機会が生まれやすくなっています。
そのため、会社の方針と合わないとか、人間関係に問題が生じた、といったケンカ別れのような悲劇的退職ではなく、社員が新しい機会を得てより良い就業環境へと移ろうとする「発展的退職」が起きやすくなりました。
社員が転職する事態を防ぐには、会社として魅力を高める必要があります。ただ、それで悲劇的退職をある程度防止できたとしても、発展的退職までは防ぎきれません。キャリアを発展させるべく退職を申し出る前向きな社員を引きとめるのは困難です。
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