銅よりも高い……「カカオショック」勃発で“チョコレートは贅沢品”になるのか:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
カカオ価格の急激な高騰が、チョコレート産業に大きな打撃をもたらしている。今後も長期にわたって続くのか。
「ウッドショック」と比較する
ウッドショックは、新型コロナウイルスの流行などにより木材価格が高騰した状況を指す。この問題は21年3月に深刻化し、ロシアの経済制裁、コロナ禍による生産・物流の停滞、米国の住宅建築需要の増加、日本の木材自給率の低さなど複数の要因が重なって発生した。
現在は木材価格がピーク時より下落しているものの、日本では国内木材自給率が依然として低いため、輸入木材頼りの状況が続いており、価格は高い水準で推移している。
CME材木先物によれば、4月2日午後5時(日本時間)時点の価格は586ドル。ピーク時の1500ドルと比較すれば3分の1まで下落しているが、ウッドショック前の300〜400ドルの価格帯に対して約1.5〜2倍程度の高騰が続いていると分かる。
コロナが終われば解決するとも考えられてきたウッドショックは、アフターコロナにおいても継続中といって差し支えない状況だ。カカオショックも長期化するのだろうか。
ウッドショックとカカオショックは、それぞれ木材産業とカカオ産業における価格高騰を指す用語だが、背景や影響において共通点と相違点が存在するため、それぞれを整理したい。
まず共通点についてであるが、ウッドショックもカカオショックも、共に供給面の問題が価格高騰の主要な要因である点に注目したい。ウッドショックは、環境保護政策や過剰な伐採による木材供給の制限、さらにはパンデミックに伴う生産・輸送の遅延が原因で発生した一方でカカオショックは、気候変動や病害虫の影響による収穫減少で発生している。
両ショックともに、原材料の価格高騰が最終製品のコストに反映され、消費者価格の上昇を引き起こしている。ただし、ウッドショックでは、建設業や製材業などに影響を及ぼすが、カカオショックは食品産業、特にチョコレート製造業に大きな影響を与える点で業界や消費者層が異なる。
どちらも生きるために必ず必要な材料ではないかもしれないが、日常生活に深く溶け込んでいる材料でもあるため、価格が高くなっても買われる傾向があり、高止まりが長期化する可能性を示唆している。
ウッドショックの場合、アルミなどの金属や代替となりうる素材が比較的多いため価格が高止まったとしても横ばい傾向となるだろう。しかし、有効な代替素材がないカカオは、今後も右肩上がりで値段が高騰していく可能性がある。この点においてはカカオショックの方がより深刻であると言えるかもしれない。
「バニラ」のようにぜいたく品に?
現在、「バニラ」と聞けばぜいたく品のイメージがあるものの、10年ほど前までは比較的身近に購入できるものであった。18年に急激な価格高騰が発生し、一時は「銀」よりも高価になった経緯がある。
それを機に製菓メーカーなどは、バニラ味により付加価値をつけるようになり、そのような製品には「バニラビーンズ使用」などと記載するようになってきた。このように付加価値をアピールして高級路線を維持したり、バニラエッセンスを用いた「バニラ風味」のスイーツや、「ミルク味」という代替品に軸足を移すことで乗り切ってきた。
カカオ価格の高騰が長期化するようであれば、今後は「チョコレート風味」のスイーツや、カカオ豆の比率が低い「準チョコレート」などの商品が増加していくことになるかもしれない。
カカオ産業の抱える問題を根本的に解決するには、生産性向上や農地面積の拡大などの生産性向上に向けた取り組みが必要になるが、価格が大きく高騰すると市場原理に基づいて新規参入する事業者が増加し、価格高騰が落ち着くケースもある。しかし、カカオ産業をめぐっては低賃金で労働するアフリカのカカオ農家の犠牲のもとで成り立っているという指摘もあるため、新規事業者が価格高騰を機に参入しても依然として採算が取れないリスクもある。
そのように考えると、カカオ価格の高騰は、短期的な生産量の落ち込みに伴う価格上昇圧力だけでなく、フェアトレードの観点から長期的にも価格上昇圧力の影響を受けうる分野であると考えられれる。ビジネスチャンスという観点であれば、カカオ豆の栽培よりも代替製品の開発に商機がありそうだ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
関連記事
- “時代の寵児”から転落──ワークマンとスノーピークは、なぜ今になって絶不調なのか
日経平均株価が史上最高値の更新を目前に控える中、ここ数年で注目を浴びた企業の不調が目立つようになっている。数年前は絶好調だったワークマンとスノーピークが、不調に転じてしまったのはなぜなのか。 - 不正発覚しても、なぜトヨタの株は暴落しないのか
2024年に入って、トヨタグループ各社で不祥事が発覚し、その信頼性が揺らぐ事態を招いている。世界的な自動車グループの不正といえば、15年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題が記憶に新しいが、トヨタグループは比較的、株価に影響がないようだ。なぜこのような差が生まれているのか、 - 「バブル超え」なるか 日経平均“34年ぶり高値”を市場が歓迎できないワケ
日経平均株価が3万5000円に達し、バブル経済後の最高値を連続で更新し続けている。バブル期の史上最高値超えも射程圏内に入ってきたが、ここまで株価が高くなっている点について懸念の声も小さくない。 - ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。 - 孫正義氏の「人生の汚点」 WeWorkに100億ドル投資の「判断ミス」はなぜ起きたか
世界各地でシェアオフィスを提供するWeWork。ソフトバンクグループの孫正義氏は計100億ドルほどを投じたが、相次ぐ不祥事と無謀なビジネスモデルによって、同社の経営は風前のともしび状態だ。孫氏自身も「人生の汚点」と語る判断ミスはなぜ起きたのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.