なぜ、すぐに「辞めます!」という新入社員が増えているのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
「入社前に聞いていた話と全然違う 」――そんな理由で、入社早々に会社を辞める新入社員が話題を集めている。なぜ、すぐに辞める新人が増えているのか。元凶は、どこにあるのだろうか?
「入社前に聞いていた話と全然違う 」――。そんな理由で、入社早々に会社を辞める新入社員が話題を集めています。
近年、自分の代わりに会社に「辞めます!」と伝える「退職代行サービス」の利用が流行していると、情報番組で取り上げられていました。
採用した側からすれば「辞めるってことくらい、直接言ってくれよ」が本音でしょうけれど、運転代行、引越し代行、家事代行、配送代行、保証人代行、リストラ代行など……ありとあらゆる代行サービスが存在するご時世です。「辞めると言いづらい」「うまく辞められなかったら困る」という気持ちから「だったら代行さんで!」という若者が増えるのも自然のなりゆきなのかもしれません。
一方で、いつの時代も新入社員は「こんなはずじゃなかった!」「こんなの聞いてないよ!」と入社早々衝撃を受けてきました。これは「リアリティショック」と呼ばれる現象で、「組織に実際に所属する前の自分の期待」と「現実に経験したことのギャップ」から生じています。
五月病、働かない働き方、新型うつ……「リアリティショック」の実態とは
例えば、転職が一般的ではなかった昭和や平成初期の新入社員は、リアリティショックから五月病と呼ばれるストレス症状に悩まされました。
“就活”という言葉が市民権を得た2010年前後半からは、わずか3カ月で辞める若者が目立つようになり、やがて「働かない働き方」をする新入社員も出てきました。何度注意しても遅刻する、提出書類を出さない、やるべき仕事を平気で放棄する、といった具合です。中には「母親から電話がきて『しばらく休ませます』と言われた」と嘆く上司もいました。
これらの事例は私が2011〜15年の毎年6月に大企業の人事担当者を対象に実施したフォーカスインタビューで耳にした「うちの会社の困った新入社員」の実態です。
そんな(上司たちから見れば)“期待はずれ”の新人たちの多くは実家から通っていて、連絡を取ろうとすると母親が出る。そんな状況を、人事担当者たちは「働かない働き方」と表現したのです。
さらに同時期に「新型うつ」なるものが登場します。知人の精神科医によると「会社に行きたくないと言って診察を受けに来る若い世代には、今までのうつ傾向には当てはまらない症状を呈する人が多くなった」とのこと。
うつ傾向は一般的に、自責感や罪悪感が強く、何に対しても気力がわかず、興味や関心が低下するといった症状を呈するものです。ところが、思い通りにならないことを会社や上司のせいにする傾向が強く、仕事の時だけうつ傾向に陥るケースが散見されるようになったため、精神科医が便宜的に「新型うつ」あるいは「現代型うつ」と命名したのです。
そして今、転職の切符が手に入りやすくなった上に、退職代行サービスという業種が誕生したことで、会社を辞めるハードルが下がり、辞めるまでの期間も短縮しました。心が悲鳴を上げる前に「ストレスを感じる場所から逃げる」対処が可能になったわけです。
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