「ノーパンで履けるズボン」 1万円超なのに月商500万円、なぜ人気?:新たな定番をつくる
ノーパンで履けるズボン「ととのうパンツ」が話題だ。1着1万円以上するにもかかわらず、月商は500万円ほどに達する。人気の理由を探った。
“ノーパンで履けるズボン”をご存じだろうか。「ととのうパンツ」という商品で、最近話題になっている。
ロングタイプは1着1万9800円、ショートタイプは1着1万3200円とかなり強気な価格だが、月平均300万〜500万円ほど売れているという。
「サウナでととのった後に締め付けられる下着を履きたくないと思ったんです」──プラスチャーミング代表の中川ケイジさんは、ととのうパンツを閃(ひら)いたきかっけを振り返る。
自身のうつ病の経験から、開放的なリラックス時間を創出するふんどしに魅力を感じ起業した中川さん。ふんどしの特徴を商品開発に生かせないかと検討を始めた。夏はふんどしの上にショートパンツという自身のスタイルを踏まえ、ノーパンで履けるショートパンツの開発に取り組むことに。
試作品を数種類作成し、快適さを追求するために局部に当たる部分の幅の調整を10回ほど繰り返したが、大枠のイメージもあったおかげで短期間で形になった。
「パンツの表地はさらっとした肌触りのシアサッカー生地を採用しました。内側には国内生産のダンガリーコットンを使用した、ふんどしと同様の作りのインナートランクスを付けています。通気性が良いので蒸れないですし、二重構造にしているので透けにくいです」(中川さん)
着用シーンは多岐にわたる。サウナや温泉に限らず、家でのリラックスタイムやちょっとした外出にも対応可能だ。男女兼用で、意外と女性の購入者も多いという。
「実はふんどしって意外と女性に売れているんですよ。女性の下着はピタッとしているものが多いため、血の巡りや蒸れなどのトラブルがあるらしいです。寝るときくらいは風通しの良いものがいいというニーズから支持されているのだと思います」と中川さんは分析する。
37万円くらい売れれば…… 購入殺到で730万円を突破
構想から約1年半、2022年3月にMakuakeにて商品を公開。結果は、目標約37万円に対し、1974%の約730万円と大幅達成を記録した。
中川さんは当時、目標は37万円としたものの「300万円くらいはいってほしい」と考えていたが、ふたを開けたら1974%達成の約730万円。大幅達成となった。
応援購入という特性上、価格は現在よりも低く設定されているが、それでもショートタイプは8800円だった。決して気軽に購入できる金額ではないが、なぜここまで購入数が伸びたのか。
実は中川さんは、発売前の21年に市場調査として全国のサウナを巡って商品の手売りをしていたのだ。1000枚ほど手売りをする中で、履き心地やデザイン、ポケットの有無などサウナ好きからさまざまなフィードバックをもらい、商品に反映させた。
「手売りの時から反応がよかったので、市場がありそうだなという期待は持っていました。300万円ほど売れたら良いなと思いつつ、すでに手売りした方の購入はないと予想していましたので、初日に大量に注文が入って驚きました」(中川さん)
「#実はノーパンです」というキャッチーなコピーや、サウナの代名詞となっている女優・清水みさとさんを起用している点も、注目度向上や応援購入に拍車をかけた要因だと中川さんは振り返る。
ととのうパンツの人気はMakuake内だけにとどまらない。Makuakeで発売した4カ月後、伊勢丹新宿店メンズ館に商品が並んだ。ととのうパンツを「伊勢丹サウナ部」のメンバーに提案したことをきっかけに、催事イベントなどに出品できるようになったという。サウナ関連の催事に限らず、父の日などの催事にも出品。羽田空港のイセタン羽田ストアにも期間限定で出品し、インバウンド需要を獲得した。
芸能人の後押しもあった。ふんどしを愛用している千原ジュニアさんや阿部サダヲさんがYouTubeやラジオ、テレビで言及したことで人気に火が付いた。それまでは月の売り上げは100万円ほどだったが、売り上げ枚数が3〜5倍に跳ね上がった。増減はあるものの、現在は月商500万円前後に落ち着いているという。
まだ寝るときもピタッとした下着履いているの? 定番をつくる
ととのうパンツは一般的には「高価なブランド」と位置付けられるが、リピート率が高いことが強みと、中川さんは自信を見せる。日々を忙しく過ごす中で、自身の健康や睡眠に関心があり、投資を惜しまない層に商品がマッチしているのだ。
「起業したときからずっと、スープストックトーキョーを目標にしています。創業者の遠山正道さんは、ファストフードの価値を変えました。何でもいいからとりあえずお腹を満たすのではなく、気軽に食べられるけど素材にこだわったり健康に配慮したりするというスタイルがスープストックトーキョーによって定着したと考えています。ととのうパンツも『まだ寝るときもピタッとした下着履いているの?』という常識を変えていき、『これ履いておけば安心』という気持ちを提供できるブランドに育てたいです」(中川さん)
22年10月にMakuakeでロングタイプを発売してから約1年半、4月12日に新作のととのうパンツを発売した。要望が多かった撥水生地を採用し、アウトドアやスポーツなど着用シーンを増やした。
「ととのうパンツを履いてるし、安心」という気持ちを広げていけるか。気象庁によると、今年の夏も各地で猛暑の予想だ。「#実はノーパンです」が活躍する土台は整いつつある。
関連記事
- コンビニの25倍も売れる コカ・コーラも期待するドリンクが「銭湯」を主戦場に選んだ真意
コンビニよりも銭湯で売れるドリンクがあるのをご存じだろうか? 日本コカ・コーラが出資したリラクゼーションドリンク「CHILL OUT」だ。なぜあえて「銭湯」を主戦場に選んだのか、その真意を取材した。 - リプトン ミルクティー、わずか1年で「元の味に戻します」 なぜ、異例の判断をしたのか?
2023年3月、森永乳業は1年前に刷新した「リプトン ミルクティー」を元の味に戻すという異例の判断をした。その背景にはどのような出来事や葛藤があったのか? 森永乳業の担当者に取材した。 - なぜ人は「ゼルダの伝説」にハマるのか? マリオのユーザー体験と比較して分かったこと
5月12日に発売された「ゼルダの伝説」の最新作が、発売たった3日で世界販売本数1000万本を突破した。30年以上も愛されるゲームの魅力とはなにか? なぜ人は「ゼルダの伝説」にハマるのか? ユーザー体験(UX)の観点からひも解いていく。 - 三日坊主にはなれない? Duolingoの「離脱ユーザー」を引き戻す画期的な仕組み
今年の抱負の常連でもある、語学学習ですが、三日坊主になってしまう人も多いのではないでしょうか。語学学習アプリ「Duolingo」はサービス内で、離脱ユーザーを引き戻す画期的な仕組みを整えています。どんな体験が待っているのかというと…… - パンはどこでも買えるのに、3990円のサブスクがなぜ人気? UX観点からワケを考える
パンのサブスク「パンスク」が人気だ。毎月8個程度のパンが入って、3990円(送料込み)と決して安くはない。パンはスーパーマーケットやコンビニ、近くのパン屋、どこでも買えるがなぜ今、パンのサブスクが人気なのだろうか? UXデザイナーの筆者が解説します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.