育休の社内負担に「最大125万円」の助成金 男性の育休取得進むか:令和6年施行の支援策
「男性の育休取得率の低さ」が課題と指摘されるようになってから久しい。理由の一つである「同僚への申し訳なさ」を解消するための助成金があるのをご存じか。最大125万円給付される制度について解説する。
少子化対策としてさまざまな取り組みがありますが、その中で重要度が高いものの一つに男性の育児参加があります。
その指標として男性の育休取得率が注目され、大企業に育休取得率の公表を義務付ける法改正も進み、これに合わせて企業の取り組みを後押しするための助成金も拡充されています。
今回は、男性の育休取得の課題と令和6年1月に新設された「両立支援助成金(育休中等業務代替支援コース)」について解説します。要は、社員の育休取得によって他の社員の業務量が増えた場合、一定金額を支給するというものです。
男性の育休取得の実態 女性と同率は道半ば
制度の詳細を説明する前に、男性の育休取得の現状を整理しましょう。かつて男性の育児休業は全く馴染(なじ)みのないものでしたが、さまざまな啓蒙活動を通じて徐々に認知されるようになり、取得率は令和に入り急激に上がっています。
一方で、政府が掲げる「こども未来戦略方針」では、2025年までに取得率50%(従来の30%から引き上げ)、2030年は85%に設定されています。
85%は女性と同等のレベルですから、この指針は男性も女性と同水準で育休を取得できる世の中を目指すというものであると理解できます。しかし、そこに至るまでにはまだまだ多くのハードルがありそうです。
また他国との比較においても、日本はまだ遅れを取っている状態です。
さらに取得期間についても男性は2週間未満が半数以上と、女性に比べ短期間の休業が中心です。単純に取得率だけを気にした企業側が取得を推進するも、本格的な長期の育児参加にはつながっていないケースも少なくないと見られます。
取り組みへのヒントと課題
厚生労働省のイクメンプロジェクトが、従業員数1000人超の企業1385社を対象に実施したアンケートで以下のような調査結果が開示されています。
男性の育休等取得率の高い(80%以上)企業群では、取得率が低い(20%未満)企業群と比べて、「自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供」や「育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施」の取り組み割合が高い傾向が見られました。
また「育児休業に関する個別の周知・意向確認」の実施者を育休等取得率別に見ると、男性育休等取得率の高い(80%以上)企業群では、取得率が低い(20%未満)企業群と比べて、個別の周知・意向確認を「直属の上司」が行っている割合がやや高い結果となっています。
これらから、会社や直属の上司が積極的に働きかけ、育休を取得しやすい雰囲気をつくることが大事なことが分かります。
一方で、従業員数の少ない企業では、会社の雰囲気以上に実際に休業者が発生した場合に他のメンバーに生じる業務負担という問題があります。
自分が育児休業を取って周りに負担をかけることへの抵抗感はもちろん、「周りが育児休業を取ったら大変だ」という不安から、お互いに休まないようにするというマイナスな紳士協定が成立してしまいます。
実際「令和4年度雇用均等基本調査」(PDFより)では以下のような結果でした。会社の規模との取得率の相関関係は非常に高いです。
事業所規模 | 配偶者が出産した者がいた事業所のうち男性の育児休業者がいた割合 |
---|---|
500人以上 | 77.8% |
100〜499人 | 44.8% |
30〜99人 | 29.5% |
5〜29人 | 16.1% |
男性育休の取得促す、育休中等業務代替支援コース
このような状況を克服する助けとして「両立支援等助成金」というものがあります。その名の通り、仕事と育児・介護などを両立できる環境作りに取り組む事業主を支援する制度で、度重なる見直しを経て、令和6年度現在では以下の6コースが用意されています。
この中の「4. 育休中等業務代替支援コース」が、特に男性の育児休業の取得を後押しすることを目的に令和6年1月に新設されました。概要は以下の通りです。
育児休業や短時間勤務制度を使用する従業員が行っていた業務について、既存の社員にただ押し付けるのではなく、手当などを支払ったうえで代替させたり、代替する従業員を新規に雇入れたりした場合に支給されます。そのため、同僚が育児休業などを取る場合に他の従業員は好意的に受け入れやすくなります。また、未婚や子のいない従業員は損をするという不満の解消も期待できます。
この助成金は業務の見直し・効率化の取り組みを促していますから、属人化された業務を見直す良いきっかけにもなります。
そして育休取得率向上の取り組みは、副次的な効果を生みだすことが分かっています。
取り組みが進む企業では人材の定着や新規採用が進み、ますます取得率が高まる一方、取り組みが遅れる企業はさらに苦戦するというスパイラルに陥る可能性もあります。助成金を活用しながら、未来に向かった取り組みを推進してはいかがでしょうか。
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