明太子の老舗「ふくや」社長に聞く コロナ禍でも売上2割減にとどまった理由:地域経済の底力(1/2 ページ)
福岡市の食品メーカー・ふくやの川原武浩社長に、コロナ禍でも売り上げ2割減にとどまった理由を聞いた。
「観光関連が厳しい。その中にはビジネス出張の方々を含んでいますが、そこはもう戻らないだろうと思います。リモートワークの環境も整備されていますし。例えば、毎月福岡に仕事で来ていた人が4回に3回はリモートでいいとなる。今後はかなり減っていくでしょうね」
こう吐露するのは、福岡市の食品メーカー・ふくやの川原武浩社長。コロナ禍で事業環境は一変した。
福岡名物といえば「明太子」(めんたいこ)。その発祥がふくやだ。
創業は1948年。川原社長の祖父・川原俊夫氏が博多区中洲で食料品卸の会社を立ち上げ、翌年には明太子の製造、販売を始めた。当初は地元客が中心だったが、次第に出張などで福岡にやってきたビジネスパーソンが買い求めるように。そして1975年3月、新幹線が博多駅まで延伸したのをきっかけに、福岡の名産品として一気に全国に広まった。
このように、歴史をひもとけば観光関連で成長した会社である。だからこそコロナ禍の影響は避けられなかった。現在、インバウンドを含めて福岡の観光需要は戻りつつあるものの、以前のような期待感はないという。
「2019年と同様に福岡空港の発着回数はもう一杯一杯ですが、航空機の小型化が進み、以前のような規模の人数がいっぺんに来ることはないですね。海外便も同じです。航空機が突然大きくなる方向にはいかないでしょうから、簡単にコロナ禍前に戻ることはないと思います」
コロナ禍でも売り上げ2割減にとどまった理由
では、コロナ禍で同社のビジネスは壊滅的に落ち込み、もう打つ手なしという状況なのか。実際にはそうではなかった。もちろん局所的には大打撃を受けた。太宰府天満宮、福岡空港、博多駅などの店舗は売上高が19年比で約7割減と苦しんだ。
ただし、会社全体では2割減に踏みとどまった。多くの名産品を扱うような会社では、売り上げが半減したという話をよく聞く。ふくやが耐えた要因はどこにあったのだろうか。
一つは卸ビジネスが好調なこと。とりわけキャッシュアンドキャリー(C&C)業態のスーパーマーケットなどで商品が売れていて、コロナ禍前の数字を超えているという。
売れ筋は瓶詰や缶詰の明太子。これらは川原社長が17年4月に社長就任する前に手掛けた商品である。生の明太子は日持ちがせず、冷蔵が必須。そこで保存が利き、かつデリバリーなども容易なものを目指した。15年にツナと明太子の漬け込み液を組み合わせた缶詰を、翌年には明太子の粒を油漬けした缶詰を発売した。
ところが、顧客から「缶詰だと使い切らないといけない。そんなに食べられない」という声があったため、瓶詰タイプの商品を開発し、17年に販売開始した。こうして生まれた商品がふくやの救世主となった。
「今でも伸びているのは瓶詰の明太子です。コロナ禍では家で食事をする機会が増えたのもありますし、ここ近年、小麦高騰によるパン類の値上がりによって米食に回帰したお客さんが多い。そうした状況の中、常備菜として使えるような瓶詰、缶詰の明太子が再評価されています」と川原社長は力を込める。
EC・通販もコロナ禍での売り上げアップに貢献した。
「福岡を旅行することができないため、その分、お取り寄せの注文が増えました。そこで九州各県の名産品をセットにして販売するなど、そういった取り組みはけっこう素早く行いましたね」
グループ会社も甘やかさない
ふくやが売り上げを落とさなかった要因は他にもある。以前から川原社長が推し進めてきたグループ会社の組織改革だ。経営基盤の再構築に着手していたことも幸いだった。
もともとの改革の経緯はこうだ。ふくやのグループ会社には経営悪化などによって買収した地場の企業が多く、依然として赤字を出し続けていた。要するに、そのマイナス分をふくや本体でカバーしていたわけである。ただし、そのまま放置しておくわけにはいかない。17年の社長就任時に持ち株会社「かわとし」を設立し、ホールディングス化した。そして、グループ各社に黒字化しなければいずれクローズすると活を入れた。
「本体が倒れたら子会社も一緒に倒れるような組織では駄目。あくまでグループ会社それぞれがきちんと事業の柱を立てるべきだということを再認識させました。採算性を考えた事業をしっかり各社でやってくれと強く伝えました」
同時に、経営のスリム化に向けて無駄を排除し、グループ内で共有化できるものはどんどん手を入れていった。具体的には物流やバックヤードといったインフラの共同利用だ。物流については専門会社を立ち上げ、そこにグループ各社の物流業務を集約した。今では外販するまでになり、地元・福岡で食品関連の会社数社の配送などを受託しているという。
また、グループ内システムの一元化にも乗り出した。一例を挙げると、本社のポータルサイトを既存のグループウェア製品から自前システムに切り替え、日々の売り上げ推移などを誰でも即座に閲覧できるようにした。これによって経営情報の可視化、オープン化を図ったわけである。
「これまでグループ各社でバラバラなシステムを使っていました。それでは情報共有などの面で非効率ですし、会社の規模によってはグループウェアの導入自体が重荷になっていました」と川原社長は振り返る。
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