オリオンビール、発売1年未満で缶チューハイをリブランド リピート率が高かったのに、なぜ?:地域経済の底力(1/4 ページ)
オリオンビールのnatura WATTAは、沖縄県産の果実で、かつ防腐剤およびワックス不使用のものだけを原材料として活用。消費者のウケは悪くなかったものの、ビジネス上の課題もあってなかなか売り上げ拡大につながらなかった。そうした反省を踏まえて、発売から1年もたたない今年7月に商品のリブランドに踏み切ったのである。その背景を取材した。
「ビール以外の事業の柱が必要でした」
こう話すのは、オリオンビールR&D部 RTD商品開発課の浜比嘉望美氏。沖縄といえばオリオンビールといわれるほど、地域を代表する企業、あるいは商品ブランドとして根付いている。実際、「オリオン ザ・ドラフト」をはじめとするビール類は同社の売り上げの大半を占める。
しかし近年、若者のビール離れや、酒税法改正による発泡酒や新ジャンル(第三のビール)の税率引き上げなどによって、今までのような「ビール類一本足打法」が通用しなくなってきている。
「もう少し間口を広げていかないと、お客さまに選んでもらえない状態になってしまうのでは」と浜比嘉氏が言うように、将来に対する危機感があった。そこで同社が新たなビジネスの可能性として目をつけたのがRTD(Ready To Drink)商品である。
RTDとは、缶チューハイやハイボール缶のようにフタを開けてすぐに飲めるアルコール飲料を指す。その手軽さや味のバリエーションの豊富さなどが消費者に受け入れられ、昨今急速に市場が拡大している。
調査会社インテージによると、家庭向けRTDの販売量は2017年から21年にかけて1.5倍に増加。サントリースピリッツが公表した調査データでも、14年連続で前年比を上回り、21年は2億7451万ケース(1ケースは250ミリリットル×24本換算)と過去最大の規模に達する。
こうした市場背景に加えて、オリオンビールの経営体制が刷新されたことも事業改革を後押しした。業績低迷が続いていた同社を、19年3月に野村ホールディングス(HD)と投資ファンドの米カーライル・グループが買収。それを境に、“新生オリオンビール”は矢継ぎ早に商品ラインアップを拡充し、RTD市場にも参入を果たしたのである。
RTDにおいては後発となった同社がこだわったのは、「沖縄」の強みを生かすこと。それを体現し、19年5月に発売した同社初のチューハイブランドが「WATTA」だ。WATTAの語源は、沖縄の言葉で「私たち」という意味の「わったー」。沖縄自慢の素材を使った商品であることをアピールする。
それからわずか数カ月後、ある出来事が話題となった。当時、アルコール度数の高いストロング系チューハイがRTD市場で人気をけん引していたが、オリオンビールは早々に手を引いた。同社においてもアルコール度数9%の「WATTA STRONG」がRTD売り上げ全体の約4割を占めていたにもかかわらず、である。理由はアルコール依存症など消費者の健康被害を少しでも防ぐためだという。この経営判断は多くの人たちから称賛された。
その後、本格的なコロナ禍に突入し、消費者の嗜好も、手っ取り早く酔える高アルコール商品よりも、自宅でゆっくりと味わうおいしいものが好まれるようになった。そのようなニーズもくみ取ったオリオンビールは、素材にこだわった“本物志向”の商品に力を入れる。それを体現したのが21年6月に新発売した「natura WATTA」シリーズだった。
natura WATTAは、沖縄県産の果実で、かつ防腐剤およびワックス不使用のものだけを原材料として活用。レモンサワーを皮切りに、21年10月にかーぶちーサワー、22年2月にはシークヮーサーサワーと商品ラインアップを増やしていった。
消費者のウケは悪くなかったものの、ビジネス上の課題もあってなかなか売り上げ拡大につながらなかった。そうした反省を踏まえて、発売から1年もたたない今年7月に商品のリブランドに踏み切ったのである。その背景を取材した。
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