「君はロールモデルになれない」 女性活躍のウラで見捨てられる、45歳以上の女性たち:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/2 ページ)
企業での女性活躍が進められる裏で、男社会で戦ってきた中高年の女性社員の存在がなかったことにされている。中高年の女性たちは「永遠にベンチを温めるだけの存在」で「用済み」なのか?
「結局、私たちは永遠にベンチを温めるだけの存在なんです」――。
役職定年を控えた50代の課長職の女性は、私のインタビューに協力してくれた際こう嘆きました。
女性は入社当時から、同期の男性より成果を出し“先”を走っていたそうです。ところが、30代後半の人事で「あれよあれよ」と男性たちに追い越されました。納得がいかず上司に理由を聞くも完全にスルー。その後も「これでもか!」というほど結果を出し続けるも、一向に辞令は下りませんでした。
そんな中、約10年前にやっと課長に昇進。政府が「女性活躍」を看板政策に掲げ、「指導的地位に占める女性の割合を30%程度に上昇させる」との目標を示したことが追い風に。しかし、彼女は上司の思いがけない発言にとてつもないショックを受けます。
「君は仕事はできるが、子育て経験がない。若い女子社員のロールモデルにはなれない」――。
新入社員向けのセミナー講師を人事部から依頼された際に、人事部長にこう言われてしまったそうです。
今だったら「即退場!」になりそうなハラスメント発言ですが、当時は「全ての女性が輝く社会」といった“大きなお世話的スローガン”(あくまでも個人的な意見です)のもと、「子育てしやすい職場=女性に優しい職場」「仕事と家庭と両立するワーキングマザー=女性の理想の働き方」というイメージが、政府や企業のお偉い人たちによって作られていました。
国のトップが「3年間抱っこし放題(育児休暇を3年まで延長)」プランをドヤ顔で打ち出すなど、今振り返ると「女性は子どもを産んで当たり前」といった性役割に基づいた上で、「男社会の仲間に入れてあげるから働いてね! もちろん子どもも産んでね!」という恐怖政策を行なっていたのです。
そんな状況が人事部長の余計な一言につながり、やっと、ほんとにやっと「自分の力が認められた」と喜んでいた彼女の自尊心は木端微塵。しかも、悪夢はそこで終わりませんでした。
50代女性社員は「用済み」なのか? 希望退職の圧力も
「コロナ禍でリモート勤務ができるようになり、社内ではより一層、女性の働きやすい職場づくりが進められています。やる気ある若い女性たちが活躍できる時代になるのは、本当にうれしい。男性の育児休暇も以前より取りやすくなっているので、感慨深いというかなんといいますか。
ただ、自分の今の立場を考えると……もやもやしちゃうんです。私は今年、役職定年なんですね。昇進は男性優先なのに役職定年はなぜ男女一律なのか、最初は納得できませんでした。でも、それは仕方がないと自分に言い聞かせましたし、課長というリーダー的立場を経験させてもらったことは会社に感謝しています。なので役職定年後は、後進育成に精を出すつもりでした。自分の経験知だけではなく専門的な視点で後進育成に関わることができた方がいいと思い、2年前からキャリアカウンセラーの勉強を始め、資格も取るつもりでした。
ところが、上司と面談があった際に『役職定年になったら、次は希望退職か』と言われてしまったんです。突然のことで何を言われているのか理解できず『定年まで後進を育成するなどして力になりたいし、会社に恩義もあるので雇用延長を考えている』と伝えましたが、上司のリアクションはなかった。
その代わりに『ご苦労さま』って言われちゃったんです。要するに肩たたきです。会社は50代のおばさん社員はいらないんです。邪魔なのでしょうね。
そう考えたら、情けなくて。仕事が好きでがんばってきたけど、結局、私たちは永遠に、ベンチを温めるだけの存在なんです。なんかね、悔しいですね」
永遠にベンチを温めるだけの存在……。なんという切ない言葉でしょうか。
彼女は笑いながら話してくれましたが、人知れず涙した日も多かったはずです。
おばさんが数人なら「女性を長期雇用するいい会社」というイメージアップになるけど、おばさんだらけになったら「なんだよババアかよ。こないだの若い人の方がいいな」とお客さんに言われてしまうのがオチ。おばさんは奥に押し込めておきたい、というのが会社のホンネなのかもしれません。
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