JAL新社長は「女性、元CA、元東亜」 異分子トップを生んだ過去の苦い経験:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
JALは1月17日、鳥取三津子専務が4月1日付で社長に昇格すると発表。「女性、元CA、元東亜」というまさに異分子なトップは、どうして生まれたのだろうか? 元CAで健康経営学者の河合薫氏が考察する。
やっと、本当にやっと、元CAがトップの座を射止めました。
JAL(日本航空)は1月17日、元CAの鳥取三津子専務が4月1日付で社長に昇格すると発表。1月2日に羽田空港で起きた衝突事故での迅速な脱出劇を「羽田の奇跡」と海外メディアから称賛されたこともあり、BBCでは「Japan Airlines appoints ex-flight attendant as first female president」とのタイトルで報道するなど海の向こうでも話題になりました。
世界の大手航空会社100社のうち、女性をトップに置いている企業はわずか12社ですから(2022年末時点)、「女性活躍後進国」と揶揄される日本だけにJALの人事は「異例中の異例」であり、「未来を見据えた大英断」として注目された側面もあったのでしょう。
個人的な話で恐縮ですが、私は新卒でANAの国際線CAをしていました。その時には、こんな時代が来るだなんて1ミリも想像していませんでした。ANAは国際線就航2年目で「JALに追いつけ、追い越せ!」を合言葉に社員一丸になってがんばっていた時代です。
社内では「CAから総合職に移行できる道が開けたらしいよ!」というウワサはありましたが、まさか社長の椅子をJALさんの元CAがゲットするだなんて。考えたこともない、というか妄想すらできませんでした。
それだけに実に感慨深いというか、率直にうれしい! しかも、鳥取さんはいわゆるJALのプロパーでなく、買収先の東亜国内航空(TDA、のちにJAS、現JAL)出身です。
ANAからも、あとに続く元CAとして、できれば今もANAでがんばっている同期から社長が誕生するといいなぁと心から願います。
女性、元CA、元東亜――異分子なトップはどうして生まれたのか?
日本の大企業の最上階の同質性の高さは、もはや異常です。
ありとあらゆるジェンダーギャップに関する世界ランキングで、最下位グループなのはご承知の通りです。企業役員に占める女性比率も、フランス(45.3%)、ノルウェー(41.5%)、イギリス(37.8%)、ドイツ(36.0%)、アメリカ(29.7%)に対し、日本はたったの12.6%。
グローバル企業とされる企業でも、「え? これが日本を代表する大企業なのか?」とあぜんとするほど昭和のまま。
Webサイトの役員一覧を見ると、役員のお偉い人たちが皆同じ雰囲気、似たような服装、ほぼ同じ髪形で、笑うに笑えません。そして、多くの企業が共通して「ちゃんと女性入れましたぜ!」的に、社外取締役の“紅一点主義”を取り入れているのです。
そんな中なぜJALで、女性、元CA、元東亜という“異分子”の象徴でもあるトップ誕生が実現したのか?
私は、JALが2000年代初頭から続いた厳しい状況を、社員一丸となって乗り越えた経験が「新生JAL」につながったのだと考えています。
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