“NVIDIA一強”に低コストで勝負 米AI企業CEOに聞く「一緒に働きたいエンジニア」:「サンバノバ」の正体【後編】(1/2 ページ)
“NVIDIA一強”の現状に、効率化と低コストで一石を投じようとする米SambaNova Systems。同社のトップは経営者として何を考えかじ取りをしているのか。一緒に働きたいと思うエンジニアの条件は? 生成AIの未来は?
2021年にソフトバンク・ビジョン・ファンド2が740億円(当時)の出資を主導したシリコンバレー拠点のSambaNova Systems(サンバノバシステムズ)。同社は、AIに強いプロセッサを開発しているほか、基盤(ファウンデーション)モデルの開発も進めている。AI開発においてハード・ソフト両面で研究・開発ができる世界でも数少ない企業だ。
【NVIDIA製を“28倍”効率化 生成AI時代のゲームチェンジャー「サンバノバ」の正体】でレポートしたように、“NVIDIA一強”の現状に対し、低コストを武器に一石を投じる生成AI時代のゲームチェンジャーと言っていい。
共同創業者にはスタンフォード大学のクンレ・オルコトン教授をはじめ、連続起業家の顔ぶれが並ぶ。ロドリゴ・リアンCEOもその一人だ。
世界最先端の技術と人材が集まるシリコンバレーで、経営者として何を考えかじ取りをしているのか。生成AIの未来はどうなるのか。リアンCEOに聞いた。
ロドリゴ・リアン SambaNova Systems共同創業者兼CEO。SambaNova Systems創業前は、オラクルでSPARCプロセッサおよびASICの開発を担当。オラクルのエンタープライズサーバ向けの最先端のプロセッサとASIC設計を担当するエンジニアリングチームを統括した。ロドリゴはヒューレット・パッカードでキャリアをスタートし、スタンフォード大学で電気工学の修士号と理学士号を取得している
スタンフォードの世界的研究者と設立 優秀なエンジニアをどう採用?
――リアンさんはどんなキャリアを歩んできたのですか。
スタンフォード大学の学部と大学院で勉強してきました。学部では電気工学、修士では電子工学を専攻していました。学部の時はロボティックスを研究していて、修士論文はコンピュータアーキテクチャをテーマに書きました。
修了後は、ヒューレット・パッカード(HP)に入りました。HPでは、ハイパフォーマンスコンピューティングの研究開発に携わっていました。2001年にインテルと共同開発したCPU「Itanium(アイテニアム)」にも私が関わっています。
その後「Afara Websystems」というCPU周りのアーキテクチャのスタートアップの立ち上げに関わりました。この創設者が、サンバノバの共同創業者でもある、スタンフォード大教授のクンレ・オルコトンです。彼とは前の会社からの付き合いですので、実に23年間、親しく仕事をしています。
Afara Websystemsは、世界初のマルチコアプロセッサを開発する会社でした。この会社で私は、エンジニアリングディレクターとして働いていました 。同社は、2002年にサン・マイクロシステムズに買収されます。サン・マイクロシステムズも、2010年にはオラクルによって買収されました。2017年頃まで、サン・マイクロシステムズが開発していたプロセッサは、ほぼ全てAfara Websystemsのものを使っていました。
――サンバノバ創業前にもスタートアップ創設に携わっているということは、リアンCEOはシリアルアントレプレナー(連続起業家)ですね。サンバノバの創設にはどのような経緯で関わったのでしょうか。
2017年になって、クンレと一緒になる機会がありました。ここに3人目の共同創業者になる、機械学習の専門家でスタンフォード大教授のクリストファー(クリス)・レも加わる形で、コンピューティングの次の大きなトレンドはどこに行くのかを3人で議論しました。その結果、次はAIという結論になったんですね。それで、サンバノバの設立に至りました。
――共同創業者3人全員がスタンフォード大に関わりがあるのですね。
社員にも、クンレやクリスの教え子が少なくありません。今では世界15カ国から500人以上の従業員が集まっています。このうち80%がエンジニアです。
――世界各国から優秀なエンジニアを採用していると思います。どうやって優秀な人を採っているのでしょうか。
スタンフォード大の世界的研究者である、クンレやクリスと一緒に仕事をしたいというエンジニアがたくさんいるんです。また、サンバノバの強みは、AIに特化したチップの開発から、ソフトや基盤モデルの開発までを一社でできる点です。AIの研究開発をする企業で、このように全領域で仕事ができる企業は世界でも数少ないですから、われわれと一緒に働きたいと思うエンジニアかどうかを重視しています。
――競合他社との人材獲得競争も激しいと思います。
私たちはテクノロジーを仕事にしたい人に焦点を当てていて、そこを最も重視しています。もちろん、このマーケットには競争相手がいますから「優秀な人材をどうしても採用しなければならない」という命題もあります。大事にしているのは、私たちのバリューを本当に理解しているエンジニアかどうか、私たちと一緒に働きたいと考えているエンジニアかどうか。そこを見極めるようにしています。
――リアンCEOももともと技術者ではありましたが、今は経営者です。かつてと異なる職種なわけですが、何を大事にしていますか。
25年間エンジニアリングマネージャーをしてきた経験から、テクノロジー企業の経営者は「まず技術のトレンドを理解しなければならない」と思っています。さまざまな技術的な選択肢がある中で、CEOが何を選択するかによって、その会社の命運が決まると言っても過言ではありません。
正しいプロダクトを作る上では、1000個ぐらいあるオプションの中からドンピシャの選択をしなければなりません。本当にユーザーが直面している課題を解決できるテクノロジーがなければならないと考えています。
この時、私が大事にしているのは、まず顧客を理解することです。それからソリューションを考える。それを顧客に持っていって、フィードバックをしてもらい学習させてもらう。そしてそれをエンジニアに渡すようにしています。良質な問題を学習し、ソリューションを作っていく……このループを繰り返すことによって、スピードアップを図れると思います。
――ループを回すのに、大事なポイントは何だと思いますか。
まず、優秀な人材を自分の周りで見つけることですね。私の場合は、素晴らしい共同創業者を見つけられました。本当に素晴らしいチームメンバーと仕事ができています。あとは最高の投資家ですね。この“三位一体”の仕組みによって、本当にホットな環境を構築できたと思っています。
まだ小さな会社ですから、たくさんのパートナーが必要です。この組み合わせが大事で、ユーザーにサービスを提供する上での成功をもたらしました。顧客も当社をパートナーにしたい、協力したいと真剣に思ってくださっていて、それが優秀な人材の獲得につながり、ソリューションを作っていきます。今の問題だけでなく、これから起こり得る将来の問題に対する解決策に、焦点を置くことも重要だと考えています。
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