クルマの価格はまだまだ上がる? ならば海外格安EVにどう対抗すべきか:高根英幸 「クルマのミライ」(2/5 ページ)
クルマの価格が高くなったという声をよく聞く。昔と比べて装備が充実していることもあり、価格は上がった。今後も、電動化やソフトウェアの高度化など、価格が上がる要素ばかりだ。安価な中国製EVなどに負けないためにも、真の価値を打ち出していくことが必要だ。
高度成長期のクルマは安かった?
日本で最初に普及したクルマ「スバル360」は36万円だったと言われている。これだけ聞くと安く思えるが、大卒の初任給が1万円だった頃の36万円、つまり給料3年分の金額だ。
それと比べれば、いかに現在の軽自動車が安いか分かるだろう。200万円を超えるといっても、大卒の初任給は22万円を超えるほどになっている。社会保険料などの負担も大きいが、1年分の給料で買える金額というのは、安いと言える。
そんな高度成長期と比べるのはナンセンスだという考えもあるだろう。ではバブル期の国産車はどうだったか。
現在でも人気のあるトヨタ「カローラレビン AE86型」は、当時の新車価格が160万円ほどだった。安いと感じる人も多いだろうが、当時のスポーティカー、それもカローラクラスではエアコンもオプション、グレードによってはパワーステアリングも付いていない(ステアフィール重視の競技ベース車両)ようなクルマだ。ABS(アンチロックブレーキシステム)なんて付いていないし、ましてや衝突被害軽減ブレーキなんてものは影も形もない。
それと比べると、今の軽自動車はオートエアコンに電動パワステ、安全装備も各種エアバッグに衝突被害軽減ブレーキ、ACC(アダプティブクルーズコントロール)など至れり尽くせりだ。
これは前述のバブル期ではトヨタの「マークII」三兄弟(チェイサー、クレスタ)と同程度(先進安全装備は当時はなかったが)である。装備は標準装着にすればスケールメリットによりコストダウンできるとはいえ、昔は200万円少々で高級セダンが購入できたことを考えれば、やはりクルマの価格は高くなったと言えるだろう。
2019年に販売を終了してしまったが、マークIIの後継モデルだった「マークX」の価格は270万円台〜(最終モデル)というものだった。軽自動車と比べれば、車格や装備の面でかなりコストパフォーマンスがいいと思うのは筆者だけではないはずだ。維持費の安さから軽自動車が人気となり、セダンの不人気から販売ラインアップから消滅してしまったが、トヨタのこのクラスのクルマはコスパに優れていた。
今でも「ハリアー」「RAV4」などはベースグレードの価格が300万円前後と比較的手頃で人気があるが、実際に購入する価格は上級グレードや限定車、オプション装備も含めれば400万円を超える。結局それなりの出費を強いられることになる。
このあたりもトヨタは商売がうまいと思わされる。最初にベースグレードを見て「安い」と買う気を起こさせ、実際に購入する時には装備が充実したグレード、限定車などの特別な仕様を選ぶように誘導するのだ。
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