クルマの価格はまだまだ上がる? ならば海外格安EVにどう対抗すべきか:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
クルマの価格が高くなったという声をよく聞く。昔と比べて装備が充実していることもあり、価格は上がった。今後も、電動化やソフトウェアの高度化など、価格が上がる要素ばかりだ。安価な中国製EVなどに負けないためにも、真の価値を打ち出していくことが必要だ。
電動化とソフトウェアでクルマの価格はどうなる?
EVは構造がシンプルなので、新興メーカーが参入しやすく、生産コストも安いという触れ込みだった。確かに構造はシンプルだが、それはECU(=コンピュータ)が働き者であるからで、その分ソフトウェアは複雑で高度になる。
今後は、ソフトウェアがクルマの性能や機能を決定づけるSDV(ソフトウェアディファインドビークル=ソフトウェアによりアップデート可能なクルマ)が主流になっていくことは間違いない。これもクルマの価格やメンテナンス費用を引き上げる要因になるだろう。
自動運転車が普及すれば、今の軽自動車と同じように買えるようになると思っている人も少なくないようだ。冒頭で述べた現在の軽自動車の多機能性と同じ方向性で考えているのだろう。だが、安くなる要素を見つけるのは難しい。
中国の電子機器メーカーDJIが自動運転システムを低価格で自動車メーカーに提供すると発表したが、不安要素は中国に情報がダダ漏れになることだけではない。日本のように安全を最重視して導入に慎重になることはなく、とにかく他社より先んじて販売するのを良しとする企業の製品だということを忘れてはならない。
クルマはドローンと違い、操縦に失敗しても機体が壊れる(それでも結構な出費であるし、落下地点に人間がいれば危険だが)だけでは済まない。EVとて何万台に1台は発火するかもしれないが、そんな確率なら仕方ない、後から補償すればいい、という考えが見え隠れするのが中国と日本の違いだ。
EVが過当競争に入り、採算度外視の値引き合戦に突入しようとしている。これは一時的なものかもしれないが、EVが普及期に入れば再び販売競争が激化することは確実だ。企業として持続可能性のあるビジネスを考えたら、補助金や規制に頼ったやり方では長続きしないことは明白だろう。
結局、ユーザーの需要をつかんでいかなければ、売り上げや収益は望めない。経営の基本というべき要素を中国の新興EVメーカーは全く理解していなかったから、苦戦しているのだ。
また、EVはまだ普及期前であるから補助金や税制面での優遇措置があるが、普及するにつれ補助金は縮小し、税制上の優遇措置は解消され、いずれ今のガソリン車以上の税金が課せられるだろう。そうでなければ税収は不足し、消費税を上げ続けるしか対策はなくなる。
今後、軽量化と生産効率化のために樹脂化、リサイクル素材の導入はさらに進む。そうした再資源化のためのコストも上昇するため、安くなる要素は限りなく少ない。安くできるとすれば自国産業を援護するための補助金か、保証など無視したような売り方しか考えられない。
今後、庶民にとってクルマはますます経済的負担の大きなものになっていく。中国製EVが価格破壊を起こせば、それに飲み込まれてしまう自動車メーカーはいくつも出てくる。
この先、価格だけでなく、本当のクルマの価値やメーカーの姿勢に共感して選んでもらうようにしなくては、日本や欧米の自動車メーカーの生き残りは難しいだろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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