貝印が進める多品種ビューティーケア戦略 創業家社長に聞く「マイネス」誕生の由来(1/2 ページ)
刃物メーカー貝印の遠藤浩彰社長に、新ブランド立ち上げの狙いや海外戦略について聞いた。
刃物メーカーの貝印がビューティーケア戦略を進めている。3月には、ビューティーケア製品の新ブランド「miness(マイネス)」を立ち上げ、5つの新製品を投入した。マイネスは女性向けのむだ毛処理用の安全カミソリで、ボディ、うで・あし、背中、VIOデリケートゾーン、わきといった5つの部位別に特化した形状の製品を展開しているのが特徴だ。
それまでのむだ毛処理は、T字型カミソリを使い回すのが通例だった。なぜ、部位別に特化した製品を投入したのか。背景には、貝印が抱える独自の海外戦略があった。貝印の遠藤浩彰社長に聞いた。
遠藤浩彰(えんどう・ひろあき)1985年生まれ。2008年貝印に入社。KAIグループのグループ企業であるカイインダストリーズの生産管理部門や海外関連会社のkai U.S.A. ltd.への出向を経て2014年に帰国。取締役、副社長就任を経て、2021年5月より貝印、カイインダストリーズの代表取締役社長兼COOに就任。岐阜県出身(撮影:河嶌太郎)
女性用が米中印など海外で好調 理由は?
――新ブランド「マイネス」を立ち上げた狙いは?
カミソリは私たちにとって、DNAに近い一つの祖業と言えます。もともとは男性用カミソリから始まった事業ではあります。ところが、今のカミソリ・美粧用品の売り上げでは、半分以上が女性用なんですね。一方の男性用は海外展開をあまりできていないのですが、この女性用のカミソリは米国や中国、インドなど海外での売り上げが好調です。
われわれにとって女性用カミソリは、カミソリ業の中でも一つの重要な分野になっています。カミソリ業の屋台骨となっている製品が「Pretty(プリティー)」という商品です。プリティーは今年で40周年を迎えるロングセラーブランドで、女性の使い捨てカミソリ市場では、売り上げトップの製品となっています。こうした製品は、貝印のものだと知らずに使われている顧客が多いのも特徴です。
――男性向けの単なるひげそりではなく、ビューティーケア製品が好調なわけですね。
貝印の製品だと分かった上で長年ご利用いただいている顧客も大事なのですが、貝印を知らない、若い世代の方々にいかにしてアプローチしていくかは社としての課題です。
ビューティーケア製品では、2022年3月に「AUGER(オーガー)」という新ブランドを立ち上げました。これは男性向けの身だしなみを整えるツールのブランドで、T字カミソリだけでなく、爪切りや美容用ハサミや毛抜きなども展開しています。今回のマイネスの多品種展開も、このオーガーの新たな刃体開発のノウハウを生かしている部分があります。
今回のマイネスは、このオーガーの男性向け美容製品を元に、女性向けの若年向け新ブランドとして新たに立ち上げた形になります。顧客に寄り添う意味で、部位別にケアする肌への優しさにこだわり、3年ぐらいの月日をかけてブランド作りを進めてきました。
――貝印の事業構成は今どのような状況でしょうか。
2022年度の連結売上高が503億円で、そのうちカミソリ・美粧用品が30%、包丁などの家庭用品が34%、その他が36%の割合となっています 。その他の製品では、外科用のメスや、眼科や皮膚科用の医療用の刃物が全体の1割くらいを占めていて、われわれが今力を入れているところでもあります。
医療用分野は、社会への貢献性も高く、われわれとしても成長性も収益性も高い特徴があります。近年はこの医療機器事業に力を入れているところもあります。
――国内と海外向けではどのような事業展開をしているのでしょうか。
売上高の比率では、国内が47%、海外が53%で海外の売り上げのほうが少し多い傾向にあります 。特に海外で先行しているのが包丁分野で、日本円で言う、単価1万円を超えるような高価格帯の包丁が人気です。
本来包丁の分野ではドイツ製が主流だったのですが、それと対比される感じで繊細な切れ味を持つ日本製の包丁に注目が集まっている形です。その日本の包丁の代表格として、私どもの包丁を選んでいただいている傾向にあります。地域で言うと米国や欧州、最近では中国あたりでも日本の刃物がかなり評価されている流れがあります。
――今回のマイネスも、海外展開を視野に入れた製品になるのでしょうか。
残念ながらカミソリやビューティーケアの製品群は、まだまだ国内がメインのマーケットになっています。今回のマイネスやオーガーも含めて、日本を起点としながら、どうやってこれからアジアを中心とした海外に展開していけるのか模索している段階ですね。
――今回は女性の悩みに寄り添うような製品を展開しましたが、このあたりの分野にはビジネスチャンスがあるのでしょうか。
そうですね。いろいろな多様性の中で、刃物をどう使うかも自由だと考えています。われわれは「#剃るに自由を」というキャッチコピーを2020年に打ち出していました。これはむだ毛を剃るのも自由だし、剃らないのもご自身の選択という考え方を打ち出したものになります。
どうしても肌はツルツルであるべきかという話になりがちなのですが、そうではなく、多様な価値観の中でどうされるかはご自身の自由だと考えています。そういった中でわれわれは剃る道具もそうですが、切り整える道具も提供しています。いろいろな形で顧客の求めるものを提供できる選択肢があると考えています。
――マイネスでは全5製品を展開しています。
マイネスでは毛を剃るという面では、部位別に剃りやすい最適な道具を顧客に提供しようという考えからスタートしました。全部で5製品あるわけですが、社内でも「こんなにSKU(Stock Keeping Unit)がいるのか」という議論はありました。
結局は身体の部位によって毛の太さも違えば濃さも違うし、柔らかさも違います。部位別に対応できるハンドル形状や長さがありますので、それを一つ一つ突き詰めていくことが、われわれの創業精神である、使う人の用途や癖までを理解し、ものづくりに生かす「野鍛冶の精神」にも行き着く結論になりました。
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