東海道新幹線の「品川駅折り返し列車」構想は、どうなった?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
東海道新幹線に「品川駅折り返し列車」構想があった。東海道新幹線の品川駅構想は、元は国鉄時代にあったが一旦白紙となった。その後、JRグループ発足3年後にJR東海が品川駅構想を再起動。その結果、2003年に品川に東海道新幹線の駅ができた。駅はできたが、品川駅折り返し列車はない。なぜか。
品川駅折り返しは「非常事態用」に
では品川駅の折り返し設備や留置線は不要かというと、実は役割が残っている。それは「東京駅や車庫分岐点に支障があったときの拠点」だ。もし東京駅で分岐器が故障したら、あるいはのりばの1つで車両が立ち往生したら。それは車両故障だけにとどまらない。乗客トラブルの恐れもある。
記憶に新しいところでは、2014年1月3日の有楽町駅沿線火災だ。日本経済新聞2014年1月15日「正月の有楽町火災があぶり出した都市防災の『盲点』」によると、午前6時頃、新幹線の線路脇のビルから出火し、パチンコ店、ゲームセンターなど3棟が焼けた。建物の一部は木造3階建てだったという。消火完了は15時31分。けが人はなかった。
東海道新幹線は火災発生直後から東京〜品川間で運行できなかった。上下106本が運休、238本が遅れ、最大遅れ時間は5時間28分だった。こんなときこそ品川が活躍するはずだったけれども、臨時列車は27本だけだった。乗務員の手配などに時間がかかったという。列車だけなら、上りプラットホームに乗客を降ろし、いったん3本の留置線に引き上げさせて、下りプラットホームから乗せればいいけれど、単純に折り返させれば良いというものではないらしい。
しかし、JR東海は東海道新幹線で、地震や雪害、豪雨などを想定して二重三重の備えをしている。あの火災を教訓に、今後はもっと適切な復旧運転ができるよう訓練しているだろう。そうでなければ、JR東日本に頭を下げてまでつくった品川駅がもったいない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「品川駅」改良の全体像が見えてきた 交通結節点としてどうなる?
京急電鉄とJR東日本が連名で品川駅周辺の開発計画を発表した。京急電鉄の地平プラットホーム化で生まれる上部空間にビルや低層デッキができる。これで品川駅周辺のまちづくりプランがそろった。そして品川駅は今後、リニア中央新幹線、東京メトロ南北線分岐線と、交通結節点としてもさらに便利になる。
新幹線の自動運転 JR東日本、JR西日本、JR東海の考え方の違い
JR東日本とJR西日本は5月9日、連名で「新幹線の自動運転について技術協力します」と発表した。JR東海は翌日の深夜から未明にかけて、自動運転の報道公開と試乗会を開催した。JR東日本、JR西日本、JR東海東海はこれまで、自動運転の試験や実験を行ってきた。しかし、各社で考え方が異なる。
年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。
次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
