「社内調整の壁」で失注……を防げ 次世代の営業「バイヤーイネーブルメント」の可能性(2/3 ページ)
データ活用やツール導入によって成果を上げ続ける営業組織を作る「セールスイネーブルメント」が注目を集めている。しかし、営業活動は営業担当と顧客とが共同で進めるもの。営業だけの能力を開発する「セールスイネーブルメント」だけでは不十分である。顧客が社内で調整することを支える、顧客起点の営業スタイル「バイヤーイネーブルメント」を身に付けると、営業組織の生産性はさらに高まるだろう。
バイヤーイネーブルメント実践で重要なポイント
次に、バイヤーイネーブルメントを進める際のポイントを説明しよう。
まず、顧客の担当者は、新しい企画・取引を通せるだけの、申請ロジックを組み立てないといけない。
無数にある考慮すべき意思決定基準と、それを押さえた情報を整理し、優先度の高いものから一つ一つ順番に言語化。顧客はそれを見て社内説明をする。
金額が大きく、複数人が関わる意思決定となるほど、このロジックのボリュームは多くなる。超大手企業との商談になると、この情報量は10万字にも及ぶこともある。
顧客が社内で的確なコミュニケーションができるようサポートすることがバイヤーイネーブルメントだ。バイヤー(購買担当者)の説明力をイネーブルメント(向上)させる。
申請ロジックを作成するときは、最終的なゴールから逆算して、あらゆる論点に応えられる情報を渡さなくてはならない。
申請ロジックに追加する情報
顧客の現状、課題や問題、取り組みの優先度、新しい取引先の情報、新しい取り組みをするべき理由、具体的な取り組み内容、取り組みによって見込めるROI、発注後のマイルストーン、成功するために工夫する体制、参考となる類似事例、ベンダーとの会議体、施策のKPI……
これらの情報を基に顧客が企画書を作成し、社内の関係者に流暢(りゅうちょう)に話せるようにしなければならない。仮に社長や役員に反対されたとしても、取り組むべき合理的な理由や、購買後の成功イメージを語れないといけない。
そのためには単に製品資料を渡すだけでは意味がない。より踏み込んだ情報やコンテンツの整理、事例やシミレーションの提供のほか、個別の提案内容を作り込み、顧客がいつでも読み直せる状態にしなければならない。
また、それぞれの論点が、ただロジカルに詰まっていれば商談が成功するわけではない。ロジックだけでなく共感も重要だ。会社が普段掲げている今後の方向性や目標、重要な意思決定者の考え方や好き嫌いなども加味する。
営業が言いたいことを売り文句で話すだけでなく、顧客が社内で説明しきれるかを徹底的に考える。本当の意味での顧客視点の営業活動ノウハウが「バイヤーイネーブルメント」だといえる。
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