「社内調整の壁」で失注……を防げ 次世代の営業「バイヤーイネーブルメント」の可能性(3/3 ページ)
データ活用やツール導入によって成果を上げ続ける営業組織を作る「セールスイネーブルメント」が注目を集めている。しかし、営業活動は営業担当と顧客とが共同で進めるもの。営業だけの能力を開発する「セールスイネーブルメント」だけでは不十分である。顧客が社内で調整することを支える、顧客起点の営業スタイル「バイヤーイネーブルメント」を身に付けると、営業組織の生産性はさらに高まるだろう。
売れる営業は顧客とタッグを組む
また、これらのロジックや情報がきれいにそろっていたとしても、決してそれを営業が提案して投げっぱなしにしてはいけない。その顧客起点のロジック(購買するべき理由)について、適切な関係者全員が理解し、納得できている必要がある。
となると、営業担当が「商談していない間のボール」も管理する必要がある。
顧客が話を通すロジックを、どのような段取りで、誰が誰に、どういう時間軸で、どんな粒度で伝えていかなければならないか。それは公式な会議体か非公式な会か。口頭なのか文章なのか資料なのか――。
顧客が複数人の関係者を調整し、合意形成に大成功する絵姿から逆算して、その過程でどんなことが起こり得るか、どんなプロセスをたどるのかを推測。どういう順番で動いていけばこのゴールやプロセスが最短で進むのかを考え、顧客と営業担当が一緒に、細かく目の前のタスクを切りながら動く。
金額の大きな購買になると、顧客自身もどう進めればいいのか、全て把握しているわけではなかったりする。営業担当も「こう動いていきましょう」と全てを指示できるわけではない。つまり、双方で腹を割って、必要なタスクを洗い出し、一緒に前に進めるというアプローチが必要だ。
過去の発注成功の事例や、会議体や意思決定フロー、関係者の整理、話を進めるための必要日数といった情報を可能な限り把握し、顧客にも協力してもらわなくてはならない。
バイヤーイネーブルメントは、「こういうゴールに向けて、こんなプロセスで進めていけば合意形成が取れますよ」と、専門家としての立場で「うまい進め方」を顧客に伝える役割もある。他の会社ではこんなプロセスで購買した、こういうステップを踏んだ、ここで失敗しやすいから注意が必要だ――と、取引を進めるための段取りを営業側がサポートする。
強い営業担当は顧客の仕切りがうまい。どういう段取りで事を進めるのか、肌感覚がある。これを論理的にタスクやスケジュールで整備し、再現性のある形で顧客に共有できるようにするわけだ。
セールスイネーブルメントだけでは成功できない?
バイヤーイネーブルメントは新しい概念だが、考え方やアプローチは従来の営業活動から大きく変わるものではなく、本質的なものだ。しかし「売れる営業組織を作ろう」「営業をイネーブルメントしよう」「営業の成功の型を作ろう」と、顧客起点ではなく営業起点で施策を設計しようとしすぎると、取引を進めるうえでは顧客の存在が不可欠であることを見過ごしてしまう。
自社の営業組織が、顧客が意思決定の調整を進めるうえで必要な情報や段取りをちゃんと共有できているのか。社内だけではなく、社外のお客さまの情報環境や調整事という観点で見直してみると、売り上げ向上のヒントがあるはずだ。
筆者プロフィール:藤島 誓也 株式会社openpage代表
株式会社ビズリーチにて当時日本で一早くカスタマーサクセスチームの立ち上げを経験し、2018年株式会社openpageを設立。顧客取引のDXソリューション「openpage」を提供、米国流のカスタマーサクセスやセールステックについて最先端の情報を国内で広く啓蒙する。
著書に「実践カスタマーサクセス BtoBサービス企業を舞台にした体験ストーリー」(日経BP、2023年)
note::https://note.openpage.jp/
Twitter:https://twitter.com/seiya_fujishima
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCK8wRQksyxBKCVvZ2TNjV0Q
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「ソリューション営業」はもう古い! これからの時代に求められる「インサイト営業」の有効性
日本では長年、ソリューション営業が正義とされ、課題解決型の営業アプローチが求められてきました。一方昨今米国では、市場動向や顧客状況の力学に迅速に適応し、顧客が自覚をもしていない未知のニーズを解き明かす「インサイト営業(Insight Selling)」が新たな営業スタイルとして注目を集めています。日本で正攻法とされていたソリューション営業は限界を迎えているのです。
むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
The Modelを「知ってるつもり」になる前に インサイドセールスはなぜ必要か
2年分のアポをたった半年で獲得、なぜ? TOPPANデジタルのインサイドセールス改革
鬼に金棒? オープンハウス「最強飛び込み部隊」が持つ“とんでもない地図”の正体
2023年9月期決算で「売上高1兆円」を突破し、話題を集めたオープンハウス。同社の「飛び込み営業」チームでは、“独自の地図”を開発し、効率的に営業活動を推進しているという。
優秀な営業マンにあえて「売らせない」 オープンハウス流、強い組織の作り方

