進まぬ日本企業のDX 米ITサポートCEOが明かす“構造的欠陥”とは(1/2 ページ)
日本企業のITの課題を、リミニストリート米本社CEO兼会長のSeth Ravin(セス・ラヴィン)氏と、日本法人社長の脇阪順雄氏に聞いた。
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生成AIの登場もあり、日本企業のDXの動きはますます加速している。一方で、その浸透度はさまざまで、進んでいる企業とそうでない企業の差が顕著なのも実情だ。
DXの一例には、ヒト・モノ・カネといった経営資源要素を適切に分配するERP(企業資源計画)があり、多くの企業でその導入が進んでいる。こうしたERPをはじめとする企業のIT投資に対し、効率的な方法を顧客に提案するのが、米ラスベガスに本社を置き、世界22カ国で事業を展開する統合サポートサービス企業・リミニストリートだ。
同社は日本に進出した2014年以降、国内400社以上の企業をコンサルしてきた。その経験から、日本と海外のITの考え方には、ある“明確な違い”があるという。前編に続き、日本企業のITの課題を、リミニストリート米本社CEO兼会長のSeth Ravin(セス・ラヴィン)氏と、日本法人社長の脇阪順雄氏に聞いた。
Seth Ravin(セス・ラヴィン) 米南カリフォルニア大学で経営学を専攻。米ピープルソフトや独SAPなどを経て、2005年にリミニストリート設立。2017年にはNASDAQ上場を果たした。社名は米ラスベガスにある自宅前の通りの名前から命名した
脇阪順雄(わきさか・よりお) 1988年日本電気オフィスシステム入社。97年SAPジャパン。部門長やVPを歴任し、自動車産業統括本部副本部長として世界最大規模の自動車メーカーを担当。2015年9月日本リミニストリート支社長に就任。
日本企業の構造的な“欠陥”とは?
――ERP回りやIT全体で、今の日本企業が抱える課題をどう見ていますか。
ラヴィン: 日本政府はDXを推進していますが、今のところなかなかよい結果が生まれていないように思います。ここに日本企業の課題があると感じています。ここは、他の先進国と比べると遅れている部分があるのではないでしょうか。
一方で、今では電子署名が当たり前になったように、大きく期待もしています。日本はこれだけ最先端のものを作れる国でもありながら、稟議制度があり、はんこの文化がありました。ここをようやく乗り越えつつあります。ただ、まだまだ道半ばだと思っています。
日本企業特有の根深い課題もあります。それは自社でITのリソースを持たず、他国と比べて外部のSIerに依存する度合いが高いことが、非常に顕著である点です。自社でITについて理解できる人材を有し、それぞれが意見を述べられるようになっていかねばならないと思っています。
――他国に比べて、なぜ日本企業にはこうした課題があると思いますか。
ラヴィン: これは日本企業の構造的な独自性から来ていると考えています。日本の大企業では、トップを始めとした経営層が定期的に変わります。CIO(情報統括役員)も例外ではありません。欧米の企業であれば、CIOは専門性の塊で、会社のテクノロジービジョンを担っているような方なんですよね。対して日本のCIOは、必ずしもテクノロジーに詳しい方が着任されるとは限らないと思っています。
テクノロジーに関する企業のビジョンは、通常トップダウンで決断する場合が多いのですが、日本でよく見受けられるのは、SIerに聞いている場合が多い状況がまだまだあります。日本のCIOは、周囲のサポーターに、テクノロジーに関するさまざまなアドバイスを聞いて回ることもあり、私には「不思議だな」と思われることが多々あります。
脇阪: ここには、日本企業が長らく「ITは単なるコストであり、企業の競争力の中核にはならない」と認識してきた歴史的背景があると思います。だからITはアウトソースをすればいいという考え方で、SIerが伸びてしまったことが問題なんですよね。
今はどこの国でも、企業はビジネスを成長させる大きなツールとしてITを位置付けています。本来ITは、単なるコストセンターではなく、経営判断と同様、社外の人にアドバイスを求めて、それに従うものではないんですよね。自分たちでビジネスを進める上で、どのようなことをやり、そのビジネスに対してどういうツールが必要なのか。それを自分たちで選べないのは、企業にとって大きな弱点になります。
――海外と日本では、企業のITに対する考え方からして違うのですね。
ラヴィン: 日本企業がグローバルでもっと戦っていくためには、このCIOに対する考え方の違いは大きな差になります。相手方のCIOは、確固たるITビジョンを持っているわけですよ。対して日本企業のCIOはそういったものを持っていない。中堅企業を見渡してみても、CIOとCFOを兼任する企業も珍しくありません。CIOのITリテラシーを上げなければ、海外の競争に負ける可能性がありますよね。
脇阪: もちろん、日本のCIOの中には高いITリテラシーを持つ素晴らしいCIOもいらっしゃいます。そういった企業ですと、自分たちでも積極的に情報の取捨選択をしますから、当社にお越しいただいた際も、ベンダーと少し距離を置くような姿勢で判断している方もいます。われわれとしても、そういったCIOが増えるようなお手伝いをしていきたいと考えています。
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