日本オラクル社長が明かす「災害時バックアップの課題」 24年は“復旧力”が試される
日本オラクルは24年を「エンタープライズの生成AI元年」としている。同社の三澤智光社長にインタビューすると、災害時のバックアップなどセキュリティ分野での日本企業の課題を語った。
2023年は生成AIに湧いた1年だった。ChatGPTのようなB2C向けの汎用的な生成AIだけでなく、企業向けソフト分野でも生成AIの導入が進んでいる。
そんな中、日本オラクルは24年を「エンタープライズの生成AI元年」とし、自社のさまざまなソフトに生成AIを組み込んでいく。
企業にとってはDXに加え、自前でサーバを持つオンプレミスからクラウドへの切り替えといった課題もある。生成AIに連動する形で、これらの課題解決を促進する動きも出てきた。
同社の業績は“絶好調”だ。23年12月に発表した23年6〜11月期の単独決算を見ると、売上高が前年同期比8.9%増の1174億1900万円、営業利益は同10.4%増の383億2100万円、経常利益は同10.4%増の384億6900万円だった。第2四半期としては売上高、営業利益、経常利益、純利益の全てで過去最高を達成している。
好調の要因は何か。日本オラクルの三澤智光社長に聞く。三澤社長は特に、災害時のバックアップなどセキュリティ分野での日本企業の課題を語った。
三澤智光 1964年4月生まれ。横浜国立大学卒。87年、富士通に入社。95年、日本オラクルに入社。専務執行役員テクノロジー製品事業統括本部長、副社長執行役員データベース事業統括、執行役副社長クラウド・テクノロジー事業統括などを歴任。2016年、日本IBMに移籍。取締役専務執行役員IBMクラウド事業本部長などを務める。20年12月に日本オラクル執行役社長に就任。21年8月より取締役を兼務
既存事業にIT投資をしないのは「完全に勘違い」
――23年の12月の決算では売上高、営業利益、経常利益、純利益の全てで過去最高を達成しました。手応えを感じていますか。
直近の決算は悪くなかったものの、全体として見ると、経済環境が不安定な点を懸念しています。欧州のインフレは悪化していますし、日本はいつ外部環境の影響を受けるか不明瞭です。
外部環境というのは災害リスクもありますが、大きくあるのは地政学リスクです。北朝鮮や中国、台湾の懸念に加え、今起こっているウクライナ、イスラエルの問題のように、非常に不安定な環境が前提にあると考えています。マクロで見ると、このような状況にあります。
――IT業界の状況をどう見ていますか。
IT業界ではDXに注目が集まっていますね。しかし、本質的なDXに気付けていない企業も少なくないと思います。例えばIT支出の場合、新規事業に対してはIT投資をするのに、既存事業にはIT投資をしない動きが、ここ数年ありました。これは完全に勘違いをした考え方だと思っています。
IT投資における日本の事業体を考えると、9割9分は既存事業なわけです。新規事業は数パーセント程度に過ぎません。この数パーセントの、成功するかしないか分からないところに投資が集まっています。既存の9割9分のビジネスを支えている相手には投資をしないといった、変なインシデントが起きています。
――特にどういった分野で、その動きを感じますか。
セキュリティ分野で特に感じます。セキュリティは既存の技術が多くを支えているわけですが、こういった本当のメインビジネスを支えているITが、ないがしろになっていた数年だったと思います。
この原因には、マスメディアの影響もあると思います。メディアでは新しい技術ばかりが取り上げられ、その技術にどれだけの価値があるのかという報道ばかりがされがちです。その影響もあり、新規事業に予算が振り向けられていた面もあると思います。
しかしここにきて、経済が少し不透明な状況に直面し、地政学リスクも出てきたことによって、多くの顧客が「当社のITのテーマはレジリエンス(復旧力)の強化です」と言い始めています。
――今になって、9割9分を占める保守的な分野が見直されているわけですね。
結局、本質的なDXを実行するには、既存事業の強化が重要なのです。既存事業を支えるITが不安定だとお話になりません。例えば、ある企業が新しい勘定系のシステムを備えていたとしても、バックアップ施設を持っていないことも少なくないのです。バックアップ施設があったとしても、社屋から20キロくらいしか離れておらず、地震など災害時のバックアップになっていないものが大半です。
――それだと単なる「バックアップ」に過ぎなくて、肝心な時に大きなリスクを負うことになりますよね。
ただ「レジリエンス」という言葉が出始め、既存事業に投資の目が向くようになった点では、まっとうな方向に進み始めたと思います。AIのような残り1分の新規事業の話ももちろんありますが、やはり既存事業のレジリエンスを高めていくことが大切ですね。そのためにもう一度 、ITを見つめ直す必要があると思っています。
――その点では、オラクルは良い意味で「保守本流」を歩んでいる気もします。
レジリエンスの強化という点では、欠かせないベンダーとして、オラクルがあると思っています。レジリエンスを再評価する動きが全般的に起きているからこそ、当社の業績も安定してきたのだと思います。
オラクルは近年クラウド事業に注力しており、クラウド事業の業績がとても好調です。これに加え(企業が自前でサーバを持つ旧来の)オンプレミス事業も伸びました。どちらも好調であったことが、決算好調の要因だと分析しています。今後も、ある程度は楽観的に捉えています。
――日本企業がクラウドに移行していくべき理由はどういった点にあるのでしょうか。
地政学リスクや経済安全保障の観点から言うと、日本の基幹システムはパッチを当てない(プログラムの一部を修正しない)傾向があります。つまり、OSのバージョンが古いままで、攻撃され放題というわけです。ミドルウェアも古いままで、オラクルのデータベースも保守が切れている。セキュリティパッチが出てきたとしても、それが当てられない。そのような状態のシステムが少なくありません。
なぜそうなるのか。サーバのメーカーもバラバラ、ストレージのメーカーもバラバラ、ネットワークもバラバラで、OSもたくさんあり、データベースもさまざまで、どうしようもない状態だからです。そうすると、次世代のプラットフォームが必要になってきます。
――そのためのクラウド化というわけですね。
私たちは単に、場所としてのクラウドを提唱しているわけではありません。パブリッククラウドという「シェアリングエコノミー環境に全部持っていきましょう」とは提唱していないのです。なぜなら、クラウドに移した先で、つまり企業の非常に重要なシステムの横で(一般消費者が視聴する)YouTubeが動いていたら危険だと思うからです。
オラクルは、このテクノロジーを次のプラットフォームに移行したらどうかと提案しているに過ぎません。クラウド移行の在り方もさまざまです。
当社の製品も、さまざまなものがあります。例えば「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」の専用リージョン「OCI Dedicated Region」のように、パブリッククラウドと全く同じものを、ユーザーのデータセンターに作るもの。「Oracle Alloy」のように、パートナーのデータセンターに作って、パートナーのプライベートレーベルクラウドにしてもらう在り方などもあります。
これらは、テクノロジーは同じですが、ビジネスモデルが違います。
――クラウドの在り方から見つめ直しているわけですね。
クラウドというと、どうしてもみんなで分け合うパブリックでシェアリングエコノミー型のものを想像する人が多いです。しかし今はそうではなくて、場所を問わずに、世界中どこでも同じテクノロジーを使える点が注目されています。
オラクルでクラウド移行したユーザーは、基本的に5年間のランニングコストやトータルコストを大幅に下げています。そして皆さん定期的にパッチを当てています。また、クラウドに移行したタイミングで、災害復旧用のデータ退避施設を持つようになっています。
一方でオンプレミスも、非常に複雑なところから、シンプルな次世代アーキテクチャに移すことは非常に重要です。
――シンプルであることは、なぜ重要なのでしょうか。
オンプレミスでは例えば、何か障害が発生した際に「ネットワークが何で動いているのか」「ハードやストレージ、サーバのOSは何で、ストレージのネットワークカードのBIOSは何か」など、原因を特定するのに全てを調べなければなりません。
だからコストが高いわけですが、これをクラウドテクノロジーに移行することによって、今まで全く可視化されていなかった人件費が見えるようになります。
――米Microsoft(マイクロソフト)も、オンプレミス環境をそのままクラウドへ移行できる次世代インフラストラクチャ「Oracle Cloud Infrastructure (OCI)」を利用しています。オラクルならではの強みがあるからだと思うのですが、なぜだと思いますか?
次世代のアーキテクチャに移した方が良いという話をしましたが、Amazon Web Services (AWS)が次世代のプラットフォームになるかというと、ならないと思います。なぜなら、AWSに移行しようとすると、アプリケーションの全面的な書き換えが必要になるからです。
ユーザーにとって、アプリは既存事業を支える仕組みですから、基本的には同じものに移行したいわけです。アプリのデザインも新しいわけではありません。
――AWSだと、オンプレミスの環境をそのまま移せないのですね。
アプリを書き換える必要がありますから、それだけで高いコストが掛かってしまいます。今オンプレミスで動いている、顧客の業務上必要不可欠なシステムアプリケーションを、そのままクラウド化できる能力があるかどうか。ここが他のクラウドベンダーと、オラクルの違いだと思っています。だからオラクルではコストが下げられるわけです。
マイクロソフトの場合、多くの利用者がフロントエンドはマイクロソフトのソフト群で利用していて、バックエンドは「Oracle Database」という形になっています。ただこの形でも、そのままクラウドには上がりませんでした。オラクルとマイクロソフトでアプリが異なるため、性能が十分に出ないためです。
――そこで開発したのが「Microsoft Azure」上でOracle Databaseサービスを提供する「Oracle Database@Azure」というわけですね。
現在、複数のクラウド環境を併用するマルチクラウドが注目されています。さまざまなクラウドサービスがありますが、結局それぞれのクラウドに得意不得意があります。どのクラウドでも動かせるようにするやり方もあると思いますが、Oracle Databaseのようにミッションクリティカルな処理をしているものは、汎用のクラウドだと動きません。それでマイクロソフトとオラクルで共同開発したのがOracle Database@Azureです。
これも構造は単純で、マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」のデータセンターの中に、オラクルのOCI環境を入れているだけの話です。OCIで稼働するOracle Databaseの利点とともに、Azureの中でオラクルとマイクロソフト、両方の性能が発揮できます。
24年はマルチクラウド化も進んでいくと思いますが、本当のマルチクラウドというのは、こういうものだと思っています。
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