永谷園、スノーピークも上場廃止 好調企業で「上場離れ」が相次ぐワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
近年、国内の好調企業が上場廃止する動きが目立つ。どんな事情があるのだろうか。また、MBOの実行に必要となる巨額の資金を、どのように調達しているのだろうか。
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近年、国内で上場企業がMBO(経営陣による買収)やTOB(株式公開買付け)などの手法を用いて上場廃止する動きが目立つ。
「上場離れ」は筆者の造語だが、上場企業が市場から撤退し、非公開企業へ移行する動きが活発化している流れと定義したい。企業が経営の自由度や柔軟性を高めることを目的に、MBOやTOBを通じて株式市場から撤退する現象だ。
特に近年では、永谷園ホールディングス(以下、永谷園HD)やスノーピークといった著名な企業がこの流れに沿って上場を廃止した。これらの企業が上場廃止を選択する背景には、どんな事情があるのだろうか。また、MBOの実行に必要となる巨額の資金を、どのように調達しているのだろうか。
なぜ、好調企業の「上場離れ」が増えているのか?
永谷園HDは2024年6月にMBOを発表し、7月に完了させるというスピード上場廃止を実行する計画だ。背景には、事業環境の変化に迅速に対応し、経営の自由度を高める必要性があったとしている。最近ではスノーピークやシダックス、ベネッセといった有名企業も相次いでMBOによる上場廃止を選択している。
その理由として共通しているのは、短期的な株主利益に左右されずに長期的な視点で経営戦略を実行したり、スピーディーな意思決定のもとで経営基盤を再建したりといった目的がある点だ。
企業が上場を維持し続けるには、情報開示義務や株主への対応、監査費用など多くのコストが伴う。経営を立て直すという意味では、これらのコストを嫌ってMBOを選択することは合理的だ。今までのMBOによる上場廃止は、そのような動機で行われたものが少なくない。
しかし近年の「上場離れ」は、業績が好調で自己資金を豊富に持つ企業が、資金調達の機会を不要と見なした結果であることが多い。
上場企業は比較的短期での株主の利益を考慮しなければならず、長期的な経営戦略が制約されるという問題点が指摘される。企業は「物言う株主」への対応にリソースを必要とする他、近年ではSNSで投資家と思われるユーザーが経営陣個人に対し誹謗中傷するシーンも見られる。
非上場企業となれば、経営の自由度が高まり、短期的な業績プレッシャーから解放される。これにより、リスクを伴う新規事業への投資や長期的な成長戦略の実行が容易になるわけだ。従って、業績が好調で内部資金が潤沢な企業には、上場を維持するよりも非上場化する方が合理的に映る。
こうして、東証を“卒業”するような形の上場廃止の決断が増えている。その背景には、日本企業の業績が向上しており、企業に体力がついてきていることも関係している。
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