永谷園、スノーピークも上場廃止 好調企業で「上場離れ」が相次ぐワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
近年、国内の好調企業が上場廃止する動きが目立つ。どんな事情があるのだろうか。また、MBOの実行に必要となる巨額の資金を、どのように調達しているのだろうか。
巨額資金、どうやって調達?
そうはいっても、MBOを実行するためには、巨額の資金が必要となる。永谷園HDの事例では、MBOに必要な買収資金は最大で約480億円にも上る。経営陣が自らの資産だけでこれを賄うのは難しいだろう。そんな時に候補として挙がる資金調達方法は、プライベートエクイティファンドや銀行融資、社債発行などだ。
近年、MBOの資金提供元として候補に上がることも多くなってきたプライベートエクイティファンド(PEファンド)は今や、MBOの主要な資金提供者となっている。PEファンドは、非公開企業に対して資本を提供し、企業価値を向上させた後に売却するといった方式で利益を得ることを目的としている。
従来は銀行融資が主流であり、経営陣は企業の資産や将来のキャッシュフローを担保にして融資を受けることが一般的だった。そもそも一般に、巨額の資金を経営陣の負担で買収するMBOには大きなリスクが伴う。よほどの自信がない限り、借入金によって買収資金を工面することには抵抗が生まれる。しかし、PEファンドの出資金は借入金と異なるため、一般に返済義務はなく、経営陣が挑戦しやすいスキームだといえる。
現に、永谷園HDのMBOは三菱商事系のファンドである丸の内キャピタルが資金面でバックアップしているとみられる。5月にはケンタッキーフライドチキンの日本法人を米国のPEファンドであるカーライルグループが買収するなど、資本市場におけるお金の出し手としてPEファンドの顔ぶれが目立ってきた。
これらの事情を総合的に勘案すると、業績が好調な上場企業ほど、PEファンドのような多様な投資家から調達した資金でMBOを実行し、上場廃止を選択する企業は今後も出てくるだろう。
上場離れは一見するとネガティブな響きもあるが、実際は企業経営の柔軟性向上や長期的な成長戦略の実行を目指すための重要な手段となっている点を見逃してはならない。上場企業は漫然と上場を維持するのではなく、自社の経営状況と市場環境を慎重に見極めながら、上場の維持と廃止のどちらが最適かを判断し、持続可能な成長を追求することが求められる。
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筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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