水平対向+シンメトリカルAWDをアイデンティティーとして取り戻すスバル:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
スバルの戦略がずっと分からずにいた。「スバルは一体CAFE規制をどうやってクリアするつもりなのか?」ということだ。しかし水平対向ユニットが、CNFが使えるユニットになっていくことが示されて、筆者の中でようやくいろんなことがつながった。
実は、スバルの戦略がずっと分からずにいた。確か5年くらい前にスバルの人に「スバルは一体CAFE規制をどうやってクリアするつもりなのか?」と聞いたことがある。以来、この件は繰り返し何度も質問してきたのだが、得心のいく答えは得られなかった。
しかし5月28日、トヨタ、マツダ、スバルの3社は都内のイベントホール「ベルサール渋谷ガーデン」にて「マルチパスウェイワークショップ」を開催し、そこでスバルの藤貫哲郎CTOの説明を聞いて、ようやくいろんなことがつながった。
スバルの現状 BEVでZEV規制対応
順を追って説明しよう。まず、水平対向ユニットの燃費の話からだ。日本人が日本で暮らしていると、水平対向には全く燃費が良いエンジンという印象はない。しかしながら、彼らの圧倒的メインマーケットである米国では、水平対向は低燃費エンジンと評価されているらしい。
考えてみれば彼らの「燃費が悪い」の基準はたぶん5リッターV8だ。悪いのレベルが違う。日本人はトヨタのリッター36キロ走るハイブリッドの燃費を見慣れてしまっているから、スバルの燃費がよく見えないということは多分にあるのだろうと思う。逆に言えば米国の人々から見ると、客の立場としてスバルの燃費には何の文句もないのだ。
では規制はどうなっているのかと見れば、米国ではこれまで規制のメインとなっていたのはZEV規制であり、ZEV規制をクリアするにはBEVを規定比率分売る以外にない。総販売台数におけるBEVの比率だけが規制される。もうひとつのCAFE規制は、2020年から厳しくなった。それ以前との比較で40%改善の大幅な厳格化だ。
とはいえその規制値は1ガロン当たり35マイル。日本になじみのある表記に計算し直すと14.8キロ/L。例えば米国で売れているレガシイアウトバックはWLTCで13.0キロ/Lで、完全にクリアはしていないものの、クレジットにおびえるほどの差ではない。
ちなみにCAFE規制とは「Corporate Average Fuel Efficiency」の頭文字を取ったもので、その会社が規制地域で販売したクルマの平均燃費を規制するもの。少量販売のクルマがゼロエミッションだとしても平均は下がらない。要するにたくさん売れるクルマの燃費が良くないと困る。
お客は満足しているし、規制上もさほどの問題はない。だからICEモデルの燃費は実質的に関係ないといえたのだ。一方で、スバルは、昨夏発表された新経営体制において、2030年の電動車販売比率を「バッテリーEVのみで50%」へ引き上げ、120万台の全世界販売台数に対して「60万台のバッテリーEVを販売することによって実現する」と、目標を上方修正した。このように、ここしばらくスバルが打ち出してきた経営方針はBEV重視の方向性であったことも、ZEV規制への対応と考えれば納得のいく話である。
つまり、スバルにとって、CAFEはこれまで自社の商売にとって大問題ではなかったということだ。ただし、2027年から再び規制を強化する法案が出ている。ちなみに新規制値は1ガロン当たり57.8マイルで、計算すると約24.6キロ/Lだ。
なので、この規制案が通ると、スバルもCAFEに対応しなければならなくなる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
レヴォーグで提示されたスバルの未来
シャシー性能に注力したスバルの改革は、本当にスバルに相応しい戦略だ。すでに何度も書いてきているが、フラット4の余命はそう長くない。CAFE規制の今後を見れば、少数生産の特殊エンジンとして生き残ったとしても、いつまでも主力ではいられないだろう。その時「スバルの走りとは何か?」と問われたとして、このレヴォーグのSGPセカンドジェネレーションには十分な説得力があり、スバルがスバルでい続けられる理由が相当に明確になった。
スバルはこれからもAWD+ターボ+ワゴン
スバルは東京モーターショーで新型レヴォーグを出品した。レヴォーグはそもそも日本国内マーケットを象徴するクルマである。スバルは、日本の自動車史を代表するザ・ワゴンとして、レヴォーグはGTワゴンという形を死守する覚悟に見える。
好決算のスバルがクリアすべき課題
今回はスバルの決算が良すぎて、分析したくてもこれ以上書くことが無い。本文で触れた様に、研究開発費は本当にこれでいいのか? そして価格低減の努力は徹底して行っているのか? その2点だけが気になる。
変革への第一歩を踏み出したスバル
新広報戦略の中で、スバルは何を説明したのか? まず核心的なポイントを述べよう。今回の発表の中でスバルが「次の時代のスバルらしさ」と定義したのは、従来通りの「安心と愉しさ」で、その意味において従来の主張とブレはない。従来と違うのは、その「安心と愉しさ」とは何なのかについて、総花的にあれもこれもありますではなく、もっと具体的言及があったことだ。
スバルが生まれ変わるために その1
筆者を、スバルは北米の有力ディーラーへと招待した。ペンシルバニア州アレンタウンの「ショッカ・スバル」は、新車・中古車を合わせた販売数で全米1位。新車のみに関しても、全米最多級である。「スバルは他と違う」と、この自動車販売のプロフェッショナルは、本気でそう思っている。けれど、具体的に何がどう違うのかが全く説明されない。北米ビジネスの成功について、何の戦略があり、何をしようとしているのか、それを知りたいのだ。
