流浪のクルーズトレイン「THE ROYAL EXPRESS」が静岡、浜松へ JR東海に観光列車の幕が上がる:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/8 ページ)
東急の観光列車「THE ROYAL EXPRESS」がJR東海に乗り入れ、2024年11〜12月に横浜〜三島〜沼津〜浜名湖〜静岡〜日本平を巡る。東海道本線を行き来しながら富士山の景色を楽しみ、東海道の歴史と景勝地を訪ねる。これはJR東海、東急、乗客、静岡県にとって、四方良しだ。
東急側からの打診とJR東海の目論見
きっかけは、東急新横浜線の開業だ。東急新横浜線と相鉄新横浜線は、相模鉄道の都心直通と、東京近郊の住宅地域拡大に対応する目的があった。しかし、もうひとつの大きな意味がある。東急沿線と相鉄沿線が新横浜で東海道新幹線に連絡することだ。これは東急電鉄と相鉄にとって、沿線価値を高める手段だった。
JR東海にとっては、両社の沿線から品川駅で乗り換えた人々が新横浜乗り換えになってしまうから、若干の減収になりかねない。しかし、東急や相鉄の沿線から航空機や高速バスで西に向かっていた人が、新幹線に乗ってくれることも期待できる。
東急新横浜駅、相鉄新横浜駅の開業に併せて、両社にJR東海、JR西日本、阪急電鉄を加えたキャンペーンも行われた。この接点の中で、東急からJR東海に対して、「THE ROYAL EXPRESSを熱海から西へ走らせたい」という要望が伝えられた。これは東急にとって観光列車ビジネスの売り込みだった。営業範囲を広げたいわけだ。
しかも東海道本線は直流電化されており、「THE ROYAL EXPRESS」が自走できる。機関車も電源車もいらない。ということは、「THE ROYAL EXPRESS」の運転直後の展望を塞がれずに楽しめる。減車する必要もなく、フル編成で運行できる。「THE ROYAL EXPRESS」の本来の姿で運行できる。
では、JR東海が東急の提案を受諾した理由はなにか。邪推するならば、静岡県への忖度(そんたく)だろう。リニア中央新幹線静岡工区問題で、JR東海と静岡県の関係はギクシャクしている。静岡県を横断する鉄道会社は東海道本線しかないから、市民感情としては、鉄道に対する不満のほとんどがJR東海に向けられてしまう。
それでもJR東海にとって静岡県は、ビジネス面で重要だ。リニア工事の件はさておき、観光業界とは良好な関係を保って絆を強めたい。いままでも東海地区以西では、伊豆の観光キャンペーンを実施している。「THE ROYAL EXPRESS」によって静岡県の魅力を上げることは、ほかの地域から観光客を集めるだけではなく、ビジネスのメリットになる。
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