流浪のクルーズトレイン「THE ROYAL EXPRESS」が静岡、浜松へ JR東海に観光列車の幕が上がる:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/8 ページ)
東急の観光列車「THE ROYAL EXPRESS」がJR東海に乗り入れ、2024年11〜12月に横浜〜三島〜沼津〜浜名湖〜静岡〜日本平を巡る。東海道本線を行き来しながら富士山の景色を楽しみ、東海道の歴史と景勝地を訪ねる。これはJR東海、東急、乗客、静岡県にとって、四方良しだ。
観光列車を持たないJR東海
JR旅客会社のなかでJR東海だけが、これまでクルーズトレインを経験していない。それは東海道新幹線という「国の背骨」を預かる責任ゆえのことかもしれない。在来線にも投資しているけれども、在来線は生活路線という位置付けだ。観光列車にまで手を出すゆとりがない。
JR東海が内装まで専用で作った観光列車は過去にあった。国鉄から継承したお座敷客車、欧風客車ユーロライナー、JR東海が発足してからはキハ80系改造のハイデッカー車両「リゾートライナー」、165系電車改造の「ゆうゆう東海」、14系客車を改造した「ユーロピア」などだ。それらはすべて臨時列車や団体列車に使われたけれども、全て2000年までに引退している。
過去に小田急ロマンスカーと共同運行し、2階建て車両を連結した371系「あさぎり」もあったけれども、2012年に運行を終了。2階建て車両は廃車となり、残った車両は富士急行に譲渡された。
現在の「観光列車」といえば臨時急行「飯田線秘境駅号」が挙げられるけれども、車両は特急形373系を無改造で使ったから、臨時列車の域を出ていない。
各地の観光列車がローカル線の活用策として作られた。その経緯を振り返れば、JR東海は観光列車に力を入れる理由がなかったともいえる。観光需要は新幹線と在来線特急が吸収していたからだ。観光要素としては、在来線特急に「ワイドビュー」車両を投入し車窓を楽しむ工夫をするなどにとどまった。
そもそもJR東海はJR北海道やJR四国のような経営難ではない。それがなぜ、「THE ROYAL EXPRESS」の乗り入れにつながるのか。
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