リスキリング機能不全? 学び直しても賃金が増えない、当然の理由:働き方の見取り図(2/3 ページ)
リスキリングによって賃上げにつながったという声をあまり耳にしないのは、なぜなのか――。現況を分析すると「学びと雇用の接続不全」という構造的な課題が浮かんでくる。
賃上げと労働移動を実現する3つのパターン
(2)社内異動
2つめのパターンは、リスキリングによって自社内で異動したり新規事業を起ち上げたりして、より賃金の高い新しい仕事に就くルートです。いま一般事務に従事している人が経理を学んでおけば、社内公募制度に手を挙げて承認され、経理部門に空きが出た時に会計事務従事者に配置転換される可能性を高められます。
日本でいわゆる正社員と呼ばれる雇用形態はメンバーシップ型などと言われるように、就職と表現するよりは就社と表現した方が実態に近く、会社の一員として総合的な能力を評価した上で採用される傾向にあります。転職だと、リスキリングで習得した技能だけを評価して正社員として採用されることはまずありません。
その代わり、一度採用された後はオールマイティーな対応力が求められ、ジョブローテーションなどを通じて未経験の職種でも部門を横断して就業できる機会を得やすい面があります。そこで新しい職種の実務経験を得た後、他社へ転職するという道も見えてきます。
一般事務から情報処理・通信技術者のように、全く異質な職種転換の場合であっても同様です。会社が新規事業を起ち上げれば、未経験からでも異質な職種へと転換する機会が生まれやすくなります。
2024年版の骨太方針に経営者のリスキリングについて触れられているのは、経営の効率化や生産性向上だけでなく、DXやAIなど新しい知識を経営者が学ぶことで新たな取り組みや事業が生まれ、リスキリングした社員が学びを生かせる仕事が創出されることを期待しているのではないかと思います。
(3)いまの職種でのグレードアップ
3つめのパターンは、いまの職種でのグレードアップです。例えば一般事務のままでも、WordやExcelのスキルを磨いて昇進すれば賃金は上がります。その結果、エンプロイアビリティ(employability:雇用される能力)が向上し、より賃金の高い会社に転職できれば賃上げと労働移動が実現されます。
ただ、政府が掲げている三位一体改革は、成長分野への労働移動の円滑化をうたっており、その点を踏まえると、リスキリングを推奨する目的として最も強くイメージされているのは、転職を通じて新しい仕事へと移る1つめのパターンのようです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
勢いづく出社回帰 テレワークは消えゆく運命なのか?
出社回帰する企業が増えている。日常の景色がコロナ前とほとんど見分けがつかなくなっている中、テレワークは消えていくのか。
退職代行が流行 便利さに潜む3つの「落とし穴」とは?
近年、退職代行サービスへの注目が高まっている。これまであまり指摘されてこなかった退職代行を利用するデメリットについて考えたい。
パワハラの元凶なのに……「追い込み型」のマネジメントがはびこる理由
なぜパワハラは一向になくならないのか。恐怖心を抱かせて部下をコントロールしようとする「ストロングマネジメント」の発生メカニズムと、そこから脱却するためのヒントを考える。
なぜ私たちは働きづらいのか 「働き方の壁」を言語化して初めて分かること
働きづらさの背景には、さまざまな「働き方の壁」が存在する。それらを言語化していくと、誰もが働きづらさをはっきりと認識できる。働き手の周りにはどんな「壁」が立ちはだかっているのか。
なぜ休日に業務連絡? 「つながらない権利」法制化の前に考えるべきこと
「つながらない権利」が近年、関心を集めている。業務時間外の連絡対応の拒否を求める声が高まっている。法制化して職場とのつながりを一切遮断すれば解決するかというと、問題はそう一筋縄では行かない。「つながらない権利」問題の本質とは――。
