リスキリング機能不全? 学び直しても賃金が増えない、当然の理由:働き方の見取り図(3/3 ページ)
リスキリングによって賃上げにつながったという声をあまり耳にしないのは、なぜなのか――。現況を分析すると「学びと雇用の接続不全」という構造的な課題が浮かんでくる。
学び直しても賃上げにつながらないワケ
しかし、実務経験がないと転職は簡単には実現しません。政府はジョブ型人事(職務給)の導入もうたっていますが、職務給を導入した場合でも実務経験は重視されます。
実務経験がない人の転職が比較的実現しやすいとすれば、いわゆる非正規社員です。正社員の場合、採用した後に能力不足が判明した場合でも、配置転換などによって雇用を維持することが前提になります。試用期間を設けていたとしても、自由に雇用契約を解除できるわけではありません。そのため、会社としては慎重になり採用間口を狭くしがちです。
一方、非正規社員であれば、契約更新のタイミングで雇用を解消できるため、実務経験がない人材でも会社は思い切って採用しやすくなります。採用のハードルが下がる分、間口が広がるので働き手としては転職機会が得やすくなります。
つまり、政府がイメージするリスキリングで転職しやすくなるとしたら、正社員よりも非正規社員の方が可能性が高いということです。ところが、非正規社員は総じて賃金水準が正社員より低いケースが多く、賃上げにはつながりにくくなってしまいます。
このように、労働移動と賃上げを目的にしたとしても、リスキリングを推奨するだけでは目標は達成できません。ボトルネックになっているのは、学びと雇用の接続不全です。
リクルートとIndeed Hiring Labが2023年に行った調査によると、「学び」や「リスキリング」の効果を感じていると答えた人の比率は、中国91.2%、インド83.5%、米国68.2%に対し、日本は50.5%と調査した中で最下位です。せっかく学んでも、日本は諸外国と比べてうまく生かせていない様子がうかがえます。
時代の変化とともに必要とされる仕事には新陳代謝が生じ、現状を維持しているだけだと退化します。変化に取り残されずに新しい仕事に就けるよう技能を習得することは必須で、日本でもリスキリング推奨に5年で1兆円の予算を組んだことは大きな意義があります。
ただ、学びを支援する取り組み自体は決して目新しくはなく、これまでにも形を変えながら度々行われてきたことです。それにもかかわらず、なかなか効果的な学びにつながらないのは、構造的ボトルネックになっている学びと雇用の接続不全が解消されないまま放置され続けてきたことが、決定的要因の一つになっていると感じます。
学びと雇用の接続をスムーズにするには、解雇ルールを整えて正社員のあり方にメスを入れて採用間口を広げられるよう法制度を改革したり、学んだ後に実務経験を積む機会を得られるよう社会人インターンの仕組みを充実したりするなど、より踏み込んだ取り組みが求められます。学びの支援と並行して雇用との接続不全解消策を進めることができれば、リスキリング推奨は期待通りの方向に向かって機能していくのではないでしょうか。
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