リテールメディアの成長を阻む「3つの壁」とは?:カタリナと考えるリテールの未来(4/4 ページ)
注目が集まるリテールメディア。このメディアが成長していくために、乗り越えなくてはならない3つの壁がある。
パーソナライズした店頭体験を
最後にご紹介するのは「体験の壁」です。皆さんは「リテールメディア3.0」という概念を耳にしたことがあるでしょうか。リテールメディア3.0はリテールメディアにおける理想の姿として、より洗練し、パーソナライズした広告体験を創出することを目指しています。
2023年末に行われたNRF(全米小売業協会)の大型カンファレンス「Retail's Big Show」において、リテールメディア3.0に向かう上で特に重要とされたのが、パーソナライズした店頭体験の創出です。
小売店の店頭は利用客にさまざまな体験をもたらす場でもあります。小売店はこれまでも、POPの掲示やアイランド陳列など、来店者の視点を集める取り組みを行ってきました。リテールメディアの発達により、このアプローチにテクノロジーが組み込まれることになります。1st Partyデータを基にしたターゲティングで、来店者一人一人のニーズに即したメッセージを届け、気持ちよく実際の行動に移してもらえるようになっています。
2021年のボストン・コンサルティング・グループの試算によると、マスプロモーション支出の25%をパーソナライズしたオファーに変更することで、ROI(投資収益率)が200%増加するとされています。一人一人のニーズに即した体験を提供するには、1to1でメッセージングできる手段の開発が必要になります。これはオフライン上でいうと、店頭に置いてあるだけのサイネージでは実現できないということです。
オンライン上では会員アプリが選択肢になるという意見もあるでしょう。しかし流通経済研究所が2023年7月に実施した消費者調査によると、スマホ所持者のうち小売企業のアプリを利用している人の割合は業態別に
- ドラッグストアが37%
- スーパーマーケットが29%
- コンビニエンスストアが27%
という割合にとどまります。オフライン・オンラインともに、1to1でメッセージングできるツールの開発には、より一層のブレークスルーが必要だと考えています。
ここまで3つの壁についてお話してきましたが、忘れてはならないのは、現場スタッフの手を極限まで煩わせないことです。小売業各社はオペレーションDXを推進し、現場の手を空ける努力を進めています。リテールメディアがその努力を無にするようなことがあってはなりません。
既存の陳列・会計といったオペレーションの中にうまくリテールメディアを共存させる、という視点がなければリテールメディア3.0は実現できず、廃れてしまうでしょう。
3つの壁はとてつもなく大きなものに感じられたでしょうか? 壁を突破してリテールメディア3.0の世界を実現することは、夢物語なのでしょうか。
筆者は全くそうではないと考えています。一部の小売企業間では、会社の垣根を超えたネットワークが必要だと声が上がり始めていますし、メディアネットワークを構築しているプラットフォーマーもいます。チャネルに制限のないデリバリー手法の開発も進んでいますし、店頭体験の構築を進めているベンダーも数多くいます。
自社だけでこの壁を超えようとするのではなく、多面的・多角的な視野を持って業界全体で協力し、リテールメディアの理想像を作り上げることが重要だと考えています。
筆者プロフィール:松田伊三雄
カタリナマーケティングジャパン 取締役副社長 Chief Operating Officer
国内大手アルコール飲料メーカー及びグローバル消費財メーカーにて流通企画、ブランディング、営業・戦略部門を統括。国内大手GMS及びCVSのマネジメントも経験、ウォルトディズニージャパンでブランドライセンスによるマーケティングサポートのマネジメントを経て2019年カタリナマーケティングにVPとして入社。CMO、取締役CCOを経て2024年6月より取締役副社長COOとしてリテールメディアエリアを統括。
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