北海道の釧路製作所が社内DXを推進した“意外な”効果:基幹産業が衰退した町を振興(2/2 ページ)
釧路市の第二次産業を支える創業1956年の釧路製作所。近年はロケット事業のインターステラテクノロジズや、北海道大樹町などと協業した宇宙産業に進出するなど事業を多角化している。生産性を上げる必要性から取り組んでDXの成果とは?
10〜70代の従業員 どうやって使いやすくした?
事務用品の在庫管理はそれまで、担当職員が在庫数を目視で確認し、発注をしていた。釧路製作所の場合、事務用品自体の数も多く、また事務用品がある倉庫はメイン社屋から徒歩2〜3分の距離があり、時間的な負担もあった。
そこで、従業員に事務用品を使用した場合、LINE上のbotにどの在庫をいくつ使用したか報告する仕組みを作った。釧路製作所には10代から70代の従業員がおり、どの年代の社員でも使いやすいよう、その設計には協議を重ねた。
「同様にアルコールチェックも従業員に自己申告してもらう形で自動化していきました。従業員が入力した結果はキントーン上にデータが蓄積していくため、これで可視化がしやすくなりました」(新保さん)
残るは社食の食券作成業務だが、これは金銭の授受も絡むため、単に紙の食券をデジタルに移行すればよいものではなく、システムの設計を要した。
「『食堂bot』から作成し、食堂の利用を完全予約制にしました。利用する際には、当日LINE WORKSのbotとのチャット欄から利用の申請をできるようにしました。そしてその利用料金は給与から天引きする仕組みになっています。これによりペーパーレス化だけでなく、キャッシュレス化もできました。さらにスマートフォンによって、出先などどこからでも予約が可能になりました」
こうしたbot作成にあたっては、なるべく少ないやりとりで利用できるようにした。これにより、食堂の利用者が増加しているという。DXの広がりについて、羽ьミ長がこう話す。
「同様の財務系システムをCOBOLなど旧来の仕組みで組もうとしたら、それこそ何千万円の投資が必要です。それが月額数万円からできてしまうので、とても手応えを感じています」
さらに、DXを推進したことから副産物も生まれているという。
「DXツールの使い方を教える形で、18歳の職員と70代の職員との間で新たなコミュニケーションが生まれています。工場では70代の職員は熟練工で、新入社員がそうやすやすと話しかけられるような相手ではありません。新しいツールを導入したことによって社内全体の空気も新しくなっている気がします」(羽ьミ長)
今後は、社内DXにAIも導入していきたいという。
「LINE WORKSにAI機能が搭載されるのもあり、積極的にAIの採用を進めていきたいですね。例えば社員の安全のためにAIカメラを導入し、工場内の動線の最適化を図ったり、溶接など手の動きをAIカメラで解析して、社内で技術の共有化を図ったりなどといったDXも今後進めていきたいと考えています。これまでのバックヤードでのDXは、その第一歩です」(羽ьミ長)
最近は同業他社から「宇宙産業に携わりたい」との思いで転職してくる人もいるという。新たな成長産業として期待が集まる一方、それを支えるためには既存事業の収益拡大も欠かせない。地域の企業がDXをしながら挑戦を続けることで、地域自体も盛り上がっていく。
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