「パーソナライズ機能」は、なぜ魅力的? ナイキやびっくりドンキーなど多業界で広がる:グッドパッチとUXの話をしようか(2/2 ページ)
さまざまなサービス、プロダクトが「パーソナライゼーション」されつつある。ナイキのシューズやびっくりドンキーの新業態でも広がっている。なぜ、人々はパーソナライゼーションに魅力を覚えるのか?
パーソナライゼーションに魅力を感じる「心理」とは
ここで筆者自身の体験を一つ紹介します。先日、2018年から提供されているNIKEのカスタムオーダーサービス「NIKE BY YOU」でスニーカーを購入しました。きっかけは、どのようなスニーカーが流行しているのかを調べたことでした。
Instagramでは「NIKE BY YOU」で作られた多種多様なオリジナルスニーカーの投稿が注目を集めており、好きなキャラクターのカラーで世界観を表現したり、これまでにない色の組み合わせでオリジナリティをアピールしたり……自分だけの一足という「プレミアム感」が価値となっていることが分かりました。
パーソナライゼーションの大きな魅力の一つであるプレミアム感には、「認知的不協和」という人間心理が関係しています。
人は何かを購入するとき、大切な資産であるお金を失うため、無意識に喪失感を感じるとされています。「欲しいモノを買うにもかかわらず、喪失感を抱く」という、矛盾する2つの認知を持つことで生じる不快感、これが認知的不協和の状態といえます。この状態を和らげるために、人は「この商品は価値がある」「この購入は必要な行為である」と認識しようとします。購入の満足度は、その認識の強さも関係しているといわれています。
パーソナライゼーションと人間心理の関係性に着目してみると、心理学や社会学の分野で広く研究されている「コントロール欲求」も魅力を感じさせる要因だと考えられます。
コントロール欲求とは、自分の環境や状況、他人の行動や出来事に対して影響を及ぼし、制御したいという欲求を指します。これはコントロールすることでリスクを回避し、安心感を得たいという心理が影響しています。強弱の個人差はありますが、不確実性が高く、社会情勢や変化の速さに多くの人が不安を抱えやすい現代、人々のコントロール欲求は強くなっているのかもしれません。仕事や家庭でコントロールができない状況が多いと、他の対象に「コントロールできること」を求めるようになります。
その結果、食べ物など比較的低価格のジャンルにおいてコントロール、つまりカスタマイズできることが好まれる傾向が強くなっているのではないでしょうか?
トッピングや辛さ、量の選択で自分好みのカレーにできるCoCo壱番屋や、好きな天ぷらを選べて、無料で天かすやねぎが盛れる丸亀製麺が成長を続けているのも、このカスタマイズ可能な自由さや手軽さが魅力なのかもしれません。シンプルな状態から豊富なバリエーションを提供し、ユーザーのさまざまなニーズに応えているのです。
自由への憧れは人の普遍的な欲求
カスタマイズの魅力を社会学の観点から考えると、「自己表現によって得られる社会的欲求や承認欲求の充足」も挙げられます。マズローの5段階欲求が示すように、人間は「生理的欲求」や「安全欲求」が満たされると、より高度な「社会的欲求」や「承認欲求」、自分らしくありたいという「自己実現欲求」を求めます。
現代日本では、「生理的欲求」や「安全欲求」が脅かされることは珍しく、集団への帰属による安心感を求める「社会的欲求」も比較的満たされやすい状況にあるといえます。現代人がSNSに多くの時間を使ってしまうのは「承認欲求」の表れだともいわれています。
これと同じように、過去多くの哲学者が「自由への憧れ」を自身の哲学論で解釈してきました。ニーチェは「力への意志」という概念を提唱し、「人間は自己の力を発展させるために自由を求める」と考え「他者や社会の制約に縛られない状態に憧れるのは、自己超越と自己実現を追求するための本能的な欲求である」と主張しました。ルソーは「社会契約論」において「人間は本来的に自由であり、文明の発展に伴ってその自由を失っていく」と述べ、「自由の喪失は、人間にとって不自然であり、したがって人は自由を取り戻そうとする欲求を持つ」と考えました。
世の中がモノで溢れるようになるずっと昔は、「人は本来自由であり社会という括(くく)りが自由を奪う」と考えられていました。特に戦前戦後の日本では、「皆が同じ情報を得て、同じものを持ち、同じことを経験すること」を尊重していた時代が長く続きました。その後、経済成長に伴い選択肢の幅が増えました。
情報が増えたことにより複数の選択肢から選ぶ時代を経て、パーソナライズやカスタマイズにより「自由にオリジナルを作り出す」という選択肢が発展してきたのは、むしろ自然なことなのかもしれません。
選ぶ以上の体験価値を付加できるか
パーソナライゼーションの好例として最後にご紹介したいのが、びっくりドンキーが出店した新業態「Dishers」です。
このお店では、パーソナル・オーダーシステムが全席に配置され、自分好みのハンバーグプレートを注文できます。ハンバーグの枚数やソースの種類、トッピング、サラダの量、ライスの種類や量などを自由に組み合わせた、自分だけのオリジナルメニューを作れます。
メニューを作り込んでいく過程はビジュアルで適宜確認できるため、まるで自分が料理をしているような楽しさやワクワク感を味わうこともできます。完成イメージが画面で確認でき、厨房には完成図が送られ、その画像を見て調理人が料理を作るシステムなのだとか。
これにより、作るワクワクだけでなく「わたしはこれにしよう」「じゃあわたしはこっち!」といったように、選ぶワクワクをテーブルを囲む人と共有できる体験設計も、秀逸です。
今後もさまざまな業界でパーソナライゼーションが発展し、各企業が工夫を凝すことは容易に予想できます。商品単体の品質をあげることはもちろんですが、ユーザーが商品を選ぶことを超え、作り出す・コミュニケーションを生むといったさらなる体験価値を提供することが、競争を勝ち抜くヒントになるかもしれません。
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