セダンが売れる時代はもう来ないのか クルマの進化で薄れていく魅力:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
SUVやミニバンと比べて、セダンの人気は衰退している。目新しさが魅力だったSUVも走行性能などが高められたことに加え、ドライバーの意識も変わっている。スポーツカーも衰退しているが、所有して運転する楽しさを追求できるクルマも必要だ。
スポーツカーの衰退もセダンに影響
セダンと同様に絶滅危惧種と言われているのが、スポーツカーのカテゴリーだ。本来、スポーツカーとは運転を純粋に楽しむためのクルマで、決してハイパワーである必要はなく、乗員は2人で荷物を積むスペースも最小限に抑えられている。
マツダ・ロードスター(左)とスバルBRZ(先代)。ロードスターは2シーターでトランクも最小限。BRZはトヨタ86と兄弟車でリアに小さめのシートがあるが、走りへのこだわりからGTよりもスポーツカー寄りだ
それにゆったりとしたボディサイズを与え、荷物や人を乗せやすくして、高速巡行性を高めたのがGTであるが、現在ではスポーツカーとGTの区別さえ曖昧になった。それはスポーティーな車種が少ないことと、多機能を求めるがゆえの進化によるものだ。
4ドアでもスポーツカー以上の性能を誇るクルマは存在するし、ライトウェイトで実用性も確保した5ドアハッチバックモデルは、完全にスポーツカーと同じ使い方ができる。これは現代のクルマならではの魅力とも言えるだろう。
現行モデルのホンダ・シビックタイプR。サーキットで鍛え上げられたシャーシにより、4ドアハッチバックながらスポーツカーを上回る速さを誇る。速いクルマ=スポーツカーではないが、クルマ好きの心をつかむ1台であることは確かだ
そんなモデルを走らせることに魅力を感じるドライバーは、今は極めて少ないだろうが、それでも国内だけで年間4万〜5万台は売れているのだから、まだまだ需要はある。しかしながら環境規制への対応など、これからスポーツモデルが生き延びていくのはセダン以上に難しい。
従来、スポーツカーユーザーが結婚して家族ができることでセダンやワゴンへと乗り換えていたものが、ミニバンやSUVへと移っているのだから、セダンはますます減少するばかりだ。救いは、やがて子どもが独立すれば、本来のクルマ好き(?)へと戻って、再び運転が楽しいスポーツモデルなどを所有するケースが多いことだ。だが、これも何もしなければ減少していくだけとなる。
このところトヨタやマツダはクルマづくりだけでなく、クルマ好きを喜ばせ、育てようという努力を続けている。他メーカーもブランドとドライバーを密接につなげる努力をしていく必要がある。
自動運転や電動化ばかりを追求するだけでは使い捨てのクルマ、その場限りのモビリティに成り下がってしまう可能性もあるのだ。クルマは便利なだけの乗り物ではない。セダンやクーペなど、所有し運転する楽しさを味わえるクルマを存続させなければ、自動車メーカーにも未来はない。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜテールランプがまぶしいクルマが増えているのか クルマづくりに欠けている視点
前走車のテールランプをまぶしく感じることが増えた。平時にリアフォグランプを点灯するのは問題外だが、ブレーキランプの規制変更によるデザイン性の追求という要因もありそうだ。環境性能や安全性だけではなく、周囲に配慮する工夫もますます必要になるだろう。
ハイブリッドが当面の“現実解”である理由 勝者はトヨタだけではない
EVシフトに急ブレーキがかかっている。CO2排出や電力消費の面で現実が見えてきたからだ。現時点ではハイブリッド車、そのなかでもエンジンで発電してモーター走行するシリーズハイブリッドが最も現実的な方式だ。その理由とは……
スポーツカーはいつまで作り続けられるのか マツダ・ロードスターに見る作り手の矜持
スポーツカーが生き残るのが難しい時代になった。クルマの楽しみ方の多様化や、規制の厳格化が背景にある。一方、マツダ・ロードスターの大幅改良では、規制対応だけでなく、ファンを納得させる改善を実施。多様化が進む中でビジネスもますます複雑になるだろう。
クルマの“顔つき”はどうやって決まる? デザインに表れる思惑とは
自動車のフロントマスクは各メーカーにとって重要な要素だ。ブランド戦略によってその方針は異なる。海外メーカーには、デザインの継承を重視しない姿勢も見られる。一方、国内メーカーも方針はさまざまで、デザインから各社の思惑も見えてくる。
「東京湾アクアライン」6車線にすれば“渋滞”は解消するのか 課題は他にある
東京湾アクアラインは、海上の海ほたるPAの人気や千葉県側の観光スポットの充実もあり、週末は深刻な渋滞が発生している。6車線化などの設備改良に加え、ドライバーへの渋滞対策の周知など、多角的な対策が必要だ。