Amazonファーマシーは日本の薬局を駆逐できないであろう、これだけの理由(3/3 ページ)
一部では「日本の薬局市場を駆逐するのではないか」とまでささやかれるサービスだが……
実は米国でもあまりうまくいってない?
お膝元である米国でのAmazonファーマシーの試みは実際、多くの課題に直面した。既存の薬局チェーンとの競争や法規制により、期待された成果を上げることができないこともあった。また、他国でも同様の問題に直面し、進出が頓挫するケースが見られた。これらの失敗から学ぶべき教訓は多く、日本市場でも同様の問題が発生する可能性が高いのではないか。
例えば、米国では大手薬局チェーンが強固な市場シェアを持っており、Amazonが市場に参入するためには、既存のプレーヤーと競争する必要があった。また、規制の厳しさから、オンライン薬局としての完全な機能を提供することが難しく、サービスの魅力が限定的であった。このような背景から、Amazonは米国市場での成功を完全に収めることができなかったのだ。
Amazonファーマシーが日本市場で成功するためには、既存の薬局と競争するだけではなく、法規制をクリアし、消費者の信頼を獲得しなくてはならない。一方、日本の薬局市場は非常に競争が激しく、消費者が既存の薬局から受けるサービスの質も高い。Amazonファーマシーが市場での優位性を確立するのは容易ではないだろう。
消費者視点で「良いサービス」となるために
薬局チェーンとAmazonとの協業は、投資家にとっては魅力的に映るかもしれない。Amazonのブランド力は確かに強力であり、世界トップの時価総額企業との協業は市場からの高い評価を得るだろう。
しかし消費者の視点に立った時、必ずしもそうとは映らない。特に、日本の消費者は対面での相談やサービスを重視する傾向が強く、こうしたニーズに応えるためには、単にオンラインでの利便性だけでは不十分である。
Amazonの技術力や物流ネットワークは確かに大きな強みだが、それが消費者にとっての価値をどのように高めるかは別の問題だろう。特に医薬品市場においては、消費者の健康と安全が最優先されるべきであり、Amazonの進出がその信頼性を損なうようなことがあってはならない。
Amazonブランドがもたらす潜在的なリスクも無視できない。例えば、個人情報の管理やプライバシー保護の問題、さらには薬剤の品質管理など、医薬品市場特有の課題が存在する。これらの課題を克服しない限り、Amazonが医薬品市場で成功するのは難しいだろう。
アイスタイルの成功事例に翻ると、同社はAmazonとの協業にぶら下がっているわけでもなければ、棚ぼた的な成功というわけではない。同社の実店舗や独自ブランドの戦略という企業努力があったからこそAmazonとの協業をシナジーにできたのだ。
Amazonブランドが化粧品や医薬品市場でプラスになるかどうかは、消費者の視点に立った、信頼性と専門性の確保がカギを握っている。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら
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